読書の秋はこの5冊で決まり!税理士のスキルアップに効く経営支援に役立つ本
読書の秋になりました。みなさんはスキルアップのために日々、どんな書籍を読んでいますか?実体験では得られない知識を吸収できるのが読書の良いところ。松尾繁樹公認会計士・税理士事務所の代表を務める松尾繁樹さんに、税理士のスキルアップ、特に経営支援に効果のある良書を紹介していただきました。
会社数字がわかる計数感覚ドリル
■朝日新聞出版刊 ■2009年6月 ■ISBN978-4022732798
事務所のスタッフに経営者の感覚を理解してもらううえで、事業と経営数字を結びつけるアプローチが必要だという課題感を持っていました。その観点でいろいろ情報を集めていたところ、この著者のWebメディアでの連載記事に行き当たったんです。本書についても、この著者が書いたものなら読んでみたいと思い購入しました。
内容としては、例えば「ガソリンスタンドでは1時間に何台の車が給油すれば黒字になるか?」といった身近なテーマに触れながら、経営数字を学べるようになっています。こうしたことは経験しないと身につかないと思われがちですが、本書では体系立てて説明しているので飲み込みやすいと思います。
事業と経営数字を紐づけるアプローチと言うと、固定費と変動費を分けて分析する変動損益計算書を用いることが多いと思いますが、本書では変動損益計算書とビジネスモデルとの関係を詳しく書いてあります。
例えば洋服の直しをする店を例に取り、値引きしてくれる店としてくれない店でビジネスモデルがどう違うかという説明などは具体的で面白いと思います。
税理士事務所に入って間もないスタッフの方や、事業と経営数字とのつながりがいまいちピンと来ていない方にお勧めします。
CFO 最先端を行く経営管理
■中央経済社刊 ■2020年4月 ■ISBN978-4502341311
「事業と経営数字をつなげていく」ことは税理士にとっていちばん大切な仕事だと思います。企業では誰がその役目を果たしているのかと言うと、CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)」と呼ばれる人です。CFOと名のつく書籍を読み漁った中で、整理の仕方が最もわかりやすかったのが本書です。主にアメリカの企業におけるCFOの役割について論じています。
世の中にはさまざまなタイプのCFOがいて、その定義はまだ明確に決まっていません。資金調達に特化している人もいれば、私がやっているように事業と経営数字をつなげてKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)を管理し、会社を良くしていこうという人もいます。
アメリカの先進企業では、各部署に一人ずつ配属されたCFO配下のメンバーが数値管理を行い、CFOはそれらを吸い上げる形でKPIを管理する、という組織体制をとっています。営業、製造、開発など機能単位の組織に対して、CFOおよびその配下のメンバーが横串を通しているのです。このような形で管理会計をきちんとやらないと、組織は強くならないと本書は指摘しています。
難しい内容も含むので、事務所の代表を務めている方や個人で独立している方など、税理士としてある程度の経験を持つ方にお勧めします。
会議の生産性を高めるパワーファシリテーション
■すばる舎刊 ■2019年2月 ■ISBN978-4799107577
ファシリテーションと聞くと会議の進め方を想像される方が多いと思いますが、本書が扱っているのは会議だけでなく、コミュニケーションの場で広く役立つものです。例えば積極的な質問でその場にいるメンバーの知恵を引き出して、意思決定をリードする方法などは、顧問先との面談の場でも応用できます。本書が示す手法を使うと、顧問先の経営者の考えがブレている時、経営方針に沿った納得感のある意思決定を促すことが可能になります。
私自身、お客様の経営会議で月次報告をする機会があり、会議をうまくまとめたいと思って本書を手に取りました。そのお客様は組織的な課題を抱えていたのですが、普通に報告するだけでは幹部のみなさんが自分事とは考えてくれません。本書の手法を用いることで会議が建設的な場になり、出席者からも積極的に意見が出るようになりました。
ファシリテーションは意見を取りまとめるだけでなく、リーダーシップを発揮して議論のベクトルを決めていく行為です。コミュニケーションに課題を持つ方、特にリーダーシップを発揮したいと思う方に本書をお勧めします。
図解 実戦マーケティング戦略
■日本能率協会マネジメントセンター ■2005年4月 ■ISBN978-4820716501
企業にアドバイスしようと思っても、話題が経費に集中するという悩みを持つ税理士は多いと思います。我々に必要なのは、すぐに足元の売上を向上させるような戦術レベルの話よりも、マーケティング戦略に関する体系立った知識です。
マーケティングに関する書籍は数多く、どのような理論が目の前の現場に当てはまるのか判断しにくい面があります。その意味で、実戦につなげるハードルは高いのですが、本書は著者の経験に基づいた、今すぐ実践できるツールの紹介になっています。
中でも著者の開発したBASiCSという戦略は、世にある戦略論を包括的かつ体系的、そしてシンプルに整理したもの。これに基づいて実践を繰り返すことで、マーケティングに関する感性が磨かれると思います。
ちなみに著者のメールマガジンもお勧めです。私も長年、愛読しています。
V字回復の経営
■日本経済新聞出版刊 ■2006年4月 ■ISBN978-4532193423
投資ファンドの関係者から勧められて読んだのが本書です。実話をもとにしたフィクションで、普段は小説をあまり読まない私にとっても非常に興味深い内容でした。
ある事業部の再建を社長から託された主人公が、難題に立ち向かっていく姿をスリリングに描いており、「ここまでやらないと組織や人は変わらないんだな」という読後感が残ります。経営コンサルタントを務める著者ならではの視点も随所に盛り込まれていて参考になります。
会社に停滞感を持っている経営者の方、それからもちろん税理士の方にもお勧めします。私たちが扱う数字というのは、本書が描くようなドロドロした所業の結果なんだと改めて思い知らされます。
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以上、ここでは特に経営支援に取り組む税理士のスキルアップに役立つものという観点で、お勧めの書籍を紹介しました。いずれも「認定いい税理士」である松尾さんがご自身のスキルアップに一役買ったと太鼓判を押すものばかり。ぜひ参考にしてください。
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