【中小企業社長インタビュー】売上3割減 8店舗閉鎖の飲食チェーンが税理士と描く夢
株式会社麺食
代表取締役社長 中原誠さん
この2年間、コロナ禍で深刻なダメージを受けた飲食業。人気ラーメンチェーン「喜多方ラーメン坂内」を展開する株式会社麺食も例外ではありません。従業員の給与を減額したほか、8店舗を閉鎖した麺食は、傷を負ってもなお100億円企業という目標に向かって走り続けています。その先頭に立つ中原誠社長に、顧問税理士との関係について伺いました。
会社の状況にあわせて税理士を代える理由
Q.貴社の特徴を教えてください。
中原社長(以下、中原):弊社は「喜多方ラーメン坂内」というラーメン店のフランチャイズチェーンを運営しています。チェーン展開するファミリーレストランやファストフードブランドの多くはセントラルキッチンを持っていて、そこで大量に調理したものを小分けにして各店舗に送り、簡単に加工したうえで提供する形をとっています。店舗数が40、50と増えていくと、経営者は味がブレることを嫌がるので、セントラルキッチンで一括して調理するのです。
それに対して坂内では、セントラルキッチンは持っていません。
弊社の歴史を紐解くと、昭和59年に福島県喜多方市にある老舗「坂内食堂」の暖簾分けというかたちで、喜多方ラーメン坂内の前身となる「くら」を内幸町のガード下にオープン。「喜多方ラーメン坂内」の1号店を長野県東御市に出店したのは昭和63年です。
創業以来、出来たての温かいラーメンをお客様に召し上がっていただきたい、という理念を持ってやってきました。セントラルキッチンを使うと出来たてではなくなってしまうので、あえてセントラルキッチンを持たない運用にしています。非効率的かもしれませんが、手作りの良さや作る人の楽しさを大切にしているのです。
Q.今の顧問税理士はどうやって見つけましたか?
中原:今は大庭会計事務所の大庭康孝先生にお世話になっています。実は大庭先生は私が入社してから3人目の税理士さんです。
一人目は創業者である父がずっとご一緒していた方です。率直に申し上げると、この先生は決算の結果を伝えてくれるまでに時間がかかり過ぎるのが不満でした。経営数字は月次で見るべきものだと思っていますが、翌々月くらいにならないと出てこないので、舵の取りようがないと感じていたんです。
二人目は私の前職時代の先輩からご紹介いただいた先生です。二人目の先生にお願いした当時は売上が15億円内外で、年に1億円ずつくらい規模を拡大している時期でした。目論見どおり決算のスピードアップには成功したのですが、売上が25億円くらいに達した頃、海外進出を視野に入れ始めたこともあり、海外は専門外だという二人目の先生が付いて来れなくなってしまったんです。弊社のために尽力してくださった先生でしたが、ご了承のうえでご退席いただくことにしました。
さあどうしようと思った時に、大手飲食チェーンで取締役をしていた方に「スピードだけではなく数字の深掘りもできる税理士さんはいませんか?」と相談し、ご紹介いただいたのが今の大庭先生です。
Q.大庭先生に決める際、どんなことを重視しましたか?
中原:第一に月次決算の早期化、第二に経営の実態をきちんと可視化してくれることを求めました。会計上で見える数字と、僕らが知りたい管理会計的な視点での数字は異なります。会計上、正確にやっていただくのはもちろんですが、弊社の各部門の実態がどうなっているのかを月次で見えるようにしてほしいという点にこだわりました。
社内の雰囲気作りや海外進出に関する税理士からの助言
Q.大庭先生は貴社に対してどんなサービスを提供していますか?
弊社では自計化をしていますので、経理担当者の記帳に対する指導などもしていただいています。ただ一人目、二人目の先生と大きく違うのは、「こういう数字がほしい」という僕の要望に対して、素早く深掘りして「こういう指標があったらどうですか?」という提案をしてくださる点です。また他社の事例をたくさん提示してくれるのも助かっています。
Q.税務以外についてアドバイスを求めることはありますか?
あります。例えば弊社では事業承継は済んでいるのですが、父と私の間で株式の承継についてはまだ決着していません。あえて私のいないところで大庭先生に父と面談していただき、善後策を検討してもらっています。決まり切ったサービスしかしない税理士さんは、そこまではしてくれないと思います。
他にも、弊社は事業を多角化していて、例えばスペインから豚肉を輸入して卸販売したりしています。日銭商売と言われる飲食店経営とは異なり、支払いサイトの長い商社のような仕事もしているのです。新しいことを始める時、弊社の経理メンバーでは対応しきれないことも出てくるので、大庭先生に勉強会を開いていただき徹底的に教え込んでもらうこともよくあります。
Q.大庭先生からのアドバイスで特に印象に残っているものはありますか?
二つあります。一つはふるさと納税に関連した社内制度の新設です。
大庭先生には僕と父の個人の確定申告もお願いしています。ふるさと納税がまだマイナーな存在だった頃にこんな提案をされました。
大庭先生の顧問先の生花店が神奈川県小田原市のふるさと納税に登録されているので、それをうまく活用して弊社の女性従業員と、男性従業員の奥様に誕生日プレゼントとして花を贈るのはどうかという話をいただいたんです。
また大庭先生の顧問先に、神奈川県秦野市の老舗旅館がありまして、そこの宿泊券を社内の表彰者や定年退職者にプレゼントしてはどうかというご提案もいただきました。
僕も父も納税するだけで返礼品をいただいていなかったので、どちらも喜んで取り入れることにしたんです。この制度を始めて10年以上経ちますが、ありがたいことに従業員からも喜びの声をもらっています。
BS(貸借対照表)やPL(損益計算書)上の指導だけでなく、会社の雰囲気作りにまでご意見をいただけるので、人情派の先生なんだろうと思います。
Q.記憶に残っているもう一つのアドバイスは何でしょうか?
中原:海外進出についてです。
弊社は2014年にアメリカに新店舗を出しました。「あっさり味の喜多方ラーメンがアメリカで受け入れられるはずがない」などと当時はさんざん叩かれましたが、大庭先生の助力もあって現在では5店舗にまで拡大しています。
大庭先生は新しい挑戦に反対するような人ではありません。反対はしませんが、いつも冷静に、僕らが気づいていないリスクを教えてくれるんです。
例えばアメリカに展開している店舗はいずれも直営店なので、日本のフランチャイズ加盟店と違ってロイヤリティは発生させなくてもよいのだと僕は思っていました。しかし日本側の税収を増やすという国税の立場からすると、ロイヤリティを取るように必ず指摘されるよ、と大庭先生はおっしゃるんです。
最初は意味がわからなかったのですが、そのアドバイスを聞き入れ、アメリカにある直営店とも契約書を交わして日本の加盟店と同じレベルのロイヤリティをもらうことにしました。これにより、税務調査で指摘を受けるリスクを未然に回避できたと思っています。
税理士には長期的な視点でのアドバイスを求める
Q.大庭先生は頼りになる存在なのですね?
中原:はい。年齢は父よりも上なので70代のはずですが、例えばDX(デジタル・トランスフォーメーション)に対して知見を持っていらっしゃいますし、実際にかなり早い段階からITやDXの方向に舵を切っていたと思います。その証拠に大庭先生の事務所には、関連会社としてソフトハウス(ソフトウェア開発会社)があります。
そして何よりも「税理士としては専門外だろう」というところまで、嫌な顔は少しも見せず、あらゆる相談に乗ってくれます。僕としては心強い限りです。税理士には医者と似たようなところがあって、信頼しているからこそ、こちらもアドバイスを素直に聞き入れるんです。信頼していない医者が処方する薬は飲みたくないですからね。
Q.中原さんにとって「良い税理士」はどんな人ですか?
長期の目線でアドバイスをしてくれる人だと思います。このご時世、どうしても短期での業績に追われてしまいがちです。しかし50年、100年と会社を存続させていくことを考えると、「短期的に業績が上がったとしても、長期的に見たらマイナスが多いのでその手は打たないほうがいい」みたいなアラートを出してくれるとありがたいです。
Q.コロナ禍で飲食業は軒並みダメージを受けています。貴社はいかがですか?
この2年間、弊社も甚大な被害を受けました。従業員の給与を減らしたり、8店舗を閉店したり、長期的に成長させたい分野への投資を我慢したりして、月次で黒字が確保できる状態をどう作るのか苦心してきました。
また、コロナ禍でやり玉に挙げられ、いわれのない誹謗中傷を受けたばかりでなく、従業員のお子さんが小学校でいじめにあうような悔しい思いもしました。そんな中を支えてくれた従業員と大庭先生には感謝の言葉しかありません。
Q.今後の目標を教えてください。
コロナ禍で一時的に下落しているものの、アメリカも含めて今の売上が30億円強。この4倍の120億円内外までは持っていきたいと思っています。国内の店舗数は今の60から100店舗へ、アメリカは今の5から20店舗を目指しています。
もっとも、こうした数字は一つの目安に過ぎません。食を通して気持ちの温かさみたいなものを届けていきたいと思っています。それはラーメン店に限らず、弊社が展開しているベトナム料理店やスペイン料理店、蕎麦屋、あるいはこれから始める新しい業態についても同様です。日本国内やアメリカにとどまらず、世界中に食を通じた気持ちの温もりを届けていくことを目指しています。
* * *
中原さんは麺食に入って今年で16年目になります。この間、東日本大震災とコロナ禍に見舞われました。コロナ禍に至っては、麺食ほどの優良企業でも、年ベースで売上が3割ほどダウンしたそうです。こうした経験から「10年くらいのスパンで大きな災いは降りかかるものなのだろうと覚悟しています」と中原さんは語ります。
想定外の苦境を乗り切るには、第一に会社の財務面をしっかりさせておかなければなりません。信頼の置ける大庭先生との二人三脚は、どんなピンチもはねのけ、麺食を100億円企業という次なるステージに導いていくことでしょう。
取材協力 株式会社麺食
その他の中小企業社長インタビュー記事はこちら
この記事をシェアする