【中小企業社長 覆面インタビュー】月額15万円の顧問料は「いざと言う時の安心料」

Xさんは社員20名の製造業の経営者です。原材料価格の高騰やコロナ禍のあおりを受け、一時は苦境に立たされたXさんの会社ですが、顧問税理士からのアドバイスのおかげで金融機関から融資を受けることができました。そのことに感謝の念を抱く一方で、税理士を代えたいという思いもあるそうです。Xさんは税理士に何を求めているのでしょうか?匿名を条件にインタビューに応じてくれました。
経営的苦境を救った税理士からのアドバイス
Q.現在の顧問税理士とはいつからの付き合いですか?
今年で33年の付き合いになります。私は父から会社を引き継いだ二代目社長なのですが、税理士事務所は父の代から一度も代えていません。代表税理士の先生(以下、A先生と呼ぶ)はとても高齢で、同じく税理士である息子さん(以下、B先生と呼ぶ)が実質的にその事務所を取り仕切っています。私の会社を担当しているのもB先生で、何かにつけて相談に乗ってくれるとても親切な方です。
Q.月の顧問料はいくらですか?
15万円です。
Q.担当税理士の仕事ぶりに満足していますか?
おおむね満足しています。税務申告や記帳代行をしてくれるのはもちろんのこと、当社の役員会にはB先生も出席してくれますし、財務諸表なども丁寧に説明してくれます。B先生は税務についても財務についても、そして業界紙を読んでおられるため私たちの業界内のトピックについても明るく、いつも適切なアドバイスをしてくれます。
Q.税理士に経営面や財務面で助言を求めることはありますか?
あります。例えば今年、当社の原材料の仕入れ先である米国のY州が寒波に襲われました。加えて、中国の企業が我々の3倍の価格でY州の原材料を買い占めにかかったんです。その影響で原材料の価格が高騰しました。しかも、悪いことにコロナ禍の真っ只中です。業界全体が厳しい経営を強いられ、当社も例にもれず苦境に立たされたんです。
金融機関を頼ろうと思ったところ事業計画の提出を求められ、融資を受けやすい事業計画についてB先生がアドバイスをしてくれたおかげで、コロナ対策として無担保・無利子の融資を受けることができました。とても感謝しています。
Q.では税理士事務所に対して不満はないのですか?
まったくないと言えば嘘になります。気が向いた時にだけ意見を言うA先生が、どうにも厄介なんです。Y州が寒波に見舞われる直前に、当社は年ベースで800万円の営業利益を出すことができました。最近の業績低迷を考えると、奇跡と言える利益水準です。私はがんばってくれた従業員に少しでも還元しようと思ったのですが、A先生が待ったをかけたんです。
A先生は、従業員のことなんか考えなくていいから、今後に備えてその利益を内部留保に回せと言うのです。ここ数年まともなボーナスを出せなかっただけに、ぜひとも従業員に還元したいと思ったので、A先生との間で意見の対立が起きてしまいました。
Q.結局どうなったんですか?
私はA先生の意見を振り切って、少額ではありますが従業員にボーナスを払いました。もちろん残ったキャッシュは内部留保に回しましたが。ボーナスを出したことは後悔していませんが、A先生との関係は明らかに悪化しましたね。
そもそもA先生は、顧客である私たちのことよりも、自分が税務署から表彰されることに情熱を燃やしているような人なんです。頼りにしているB先生も、A先生の言うことには逆らえません。その点が唯一の不満ですね。
税理士には本当に困った時に味方でいてほしい
Q.税理士事務所を代えようと思ったことはありますか?
あります。B先生には申し訳ないのですが、気分次第でときどき介入してくるA先生がやはり問題だと思っています。上から目線のいわゆる先生然とした方で、私の父が社長だった頃からの付き合いのためか、二代目である私を見下していると感じることが多々あります。うちの会社を自分の所有物だとでも思っているのでしょうか。
Q.現在もその税理士事務所と契約を続けているのはなぜでしょうか?
当社内にもいろいろ問題がありまして、私の一存で顧問税理士を代えることができないからです。当社は従業員20名の小さな会社ですが、社内に派閥があります。私に力添えしてくれる人たちと、対立する人たちがいるのです。対立する側には専務や、父の代から勤めているベテラン社員も含まれます。加えて私が病気療養のため長期間、職務を離れたことがありまして、その間に対立する人たちの声がますます大きくなってきたのです。もしも私が税理士事務所を自由に選べる立場にあるのなら、他の事務所にも話を聞いてみたいと思います。
Q.その際、何を基準に顧問税理士を選びますか?
会社の財務や経営について的確なアドバイスをしてくれることが大前提ですね。そのうえで、顧問料をもう少し下げられるとありがたいです。
Q.税理士業界は、記帳代行や税務申告を主業務とする薄利多売型の税理士事務所と、経営や財務にもアドバイスをする代わりに相応の顧問料を求める税理士事務所に二極化していくだろうと指摘されています。
当社の顧問税理士は明らかに後者ですね。うちは零細企業ですから、月額15万円の顧問料は決して安くありません。しかし、税理士事務所に安さだけを求めるのは間違っていると思います。
コロナ禍もそうですし、先ほど例に挙げた原材料の高騰もそうですが、今は何が起きるかわからない時代です。顧問料が高くても安心して任せられる先生にお願いすべきだと思います。B先生は常に新しい情報をキャッチアップして私たちに提供してくれるので助かっています。
社長業というのは本当に孤独なものです。私自身、交友関係は狭くなく、知り合いは多いほうですが、いざと言う時に助けてくれる人は何人もいないと思っています。税理士の先生には、いざと言う時に必ず味方になってくれる数少ない一人であってほしいのです。その意味でも、15万円は本当にピンチになった時の安心料として払っているつもりです。
また私は必ずしも数字に強くないので、経営判断の材料となる数字について的確にアドバイスをしてくれる先生でないと、安心して任せられません。仕事の愚痴を聞いてくれる先生なら、なおのことうれしいですね。
Q.「優秀な税理士」は、企業の業績向上に貢献するという意見があります。税務をするだけでは、他の税理士事務所と差別化はできません。
それならB先生は「優秀な税理士」に分類できるかもしれませんね。財務や経営に関して極めて具体的なアドバイスをしてくれますから。
B先生は他にも、当社の従業員同士の仲たがいを仲裁してくれたこともあります。東京オリンピック・パラリンピックが近づいてきましたが、開催期間中は首都高速道路の通行料金が値上がりするそうですね。原材料や製品の輸送にいつも以上にコストがかかることになります。通行規制も行われるので、もしかすると一時的に物流が滞るかもしれません。B先生はこうした情報も、リスクとしていち早く知らせてくれます。B先生個人は、とても頼れる人なんです。
Q.公私にわたって経営者のパートナーになることを目指す税理士もいます。税理士にプライベートの悩みを話したりしますか?
それはどうでしょう。B先生のことは信頼していますが、すべてのことについて腹を割って話すわけではありません。先ほど申し上げた病気療養についてですが、実は私、進行性の病気を抱えていまして、それについてはB先生にも相談しません。病気のことも含めて、包み隠さず何でも話せる先生がいたら、これほど心強いことはないですね。
求められる高付加価値サービス
Xさんの顧問税理士であるB先生は、幸いにも優秀な税理士のようです。それでも顧問税理士を代えたいという思いをXさんが持つ背景には、代表税理士であるA先生の強権的な介入があります。
今回のインタビューで、できる税理士の存在を初めて知ったXさんは「できる税理士についてもっと詳しく教えてほしい」と記者に対して逆取材をしてきました。このことからも、税務申告や記帳代行といった従来業務を低価格で行う税理士ではなく、経営や財務に踏み込んで付加価値の高いサービスを提供する税理士が求められていることがわかります。
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