【中小企業社長インタビュー】売上9割減の会社を救った税理士の言葉
宮崎県宮崎市の株式会社ワン・ステップは、山元洋幸さん(代表取締役社長)が率いるイベント用遊具のレンタル会社です。過去に顧問税理士を代えた経験があり、経営コンサルタントとも契約している山元さんは、税理士に何を求めているのでしょうか?コロナ禍を受けイベントが軒並みキャンセルとなり、商品の貸出先が消えてしまったワン・ステップ。その窮地を救った税理士の言葉をご紹介します。
ピンチをチャンスに変えた税理士の一言
Q.貴社の規模やビジネスの内容について教えてください。
山元:従業員数は27名です。主に自社で開発した大型遊具をイベント向けにレンタルしています。例えば空気で膨らむトランポリンやウォータースライダーなどを扱っています。
Q.コロナ禍でイベントの中止が続いていますが、影響は受けていますか?
山元:大打撃を受けています。ゴールデンウィークや夏休みは弊社にとっては書き入れ時なのですが、イベントの中止が相次ぎ、商品の貸出先を失いました。例えば2020年のゴールデンウィークの売上は前年比9割減という状態です。コロナ禍が拡大し始めた2020年2月頃、「このままではマズいことになりそうだ」と思った私は、思い切ってピンチを逆手にとり新規事業を立ち上げることにしたんです。
Q.どんな事業ですか?
山元:コロナ患者の隔離・検査に使う簡易陰圧室(※)の開発です。弊社にはもともと空気で膨らむ遊具を開発するノウハウがありますので、それを医療用に応用しようと思ったんです。もちろん弊社だけでは手に負えませんので、地元企業や大学教授にも協力を依頼しました。みなさん快く引き受けてくださり、試行錯誤の末に開発に成功。空気注入式の簡易陰圧室は、2020年の年度末には売上全体の2割を占める商品にまで成長し、今では弊社ビジネスの柱の一つになっています。
※ワン・ステップが開発した空気注入式の簡易陰圧室。特別な空調設備を備えており、室内の空気圧を外よりも低くなるよう管理できる。
Q.簡易陰圧室の開発プロジェクトを立ち上げる時、税理士には相談しましたか?
山元:弊社では顧問税理士の先生と経営コンサルタントの先生からそれぞれアドバイスをいただく形をとっています。プロジェクトを始めるにあたっては、コンサルタントの先生にも税理士の先生にも相談しました。税理士の先生からは「コロナ対策として無利子の融資を受けられるから、新規事業を早く軌道に乗せるために、借りられるだけ借りたほうがいい」というアドバイスをもらい、背中を押していただいた格好です。
また税理士の先生と話し合ったところ、2020年前半の段階で前年比7割減だった本業の売上高を5割減まで戻せば、向こう2年は会社を存続できることがわかりました。先生からは「2年の猶予があれば必ず立て直せる」と勇気をもらったのを覚えています。
税理士には経営コンサルタントとは違う視点からの助言を期待
Q.これまでに顧問税理士を代えたことはありますか?
山元:はい、一度だけ代えたことがあります。今の先生にお世話になる前は、大阪在住の先生にお願いしていました。大阪の先生は弊社の従業員のお父様で、弊社を法人化した時からのお付き合い。ただ、高齢でパソコン業務を苦手とされていた点と、宮崎市にある弊社とは物理的な距離が遠い点がネックになっていたんです。なにせ年に一度の決算を紙で行っていましたから。大阪の先生ご自身も納得されたうえで顧問契約を解除しました。
Q.今の顧問税理士はどうやって見つけたんですか?
山元:今の先生は、地元の商工会議所が主催したセミナーに登壇されたのをきっかけに知り合いました。経営革新をテーマにしたセミナーで、とてもわかりやすい内容だったのをよく覚えています。私から今の先生に質問をすると丁寧に答えていただき、歳が近いこともあって親しみやすさを感じたんです。この方なら会社の経営についても相談できると思い、契約する意思を固めました。
Q.顧問税理士に経営の相談ができるのに、経営コンサルタントとも契約しているのはなぜですか?
山元:コンサルタントの先生は採用や人材育成に明るい方で、求人媒体の選定や求人の方法などについて助言をいただいています。もちろん経営についてもプロフェッショナルな方なので、いろいろ相談に乗ってもらいます。特に会社の長期的な戦略については、コンサルタントの先生は説得力のある助言をくれます。
税理士の先生は、コンサルタントの先生とは違う視点、つまり財務の専門家としての視点から経営のアドバイスをいただけるので心強いです。例えば、先ほど申し上げた簡易陰圧室の開発プロジェクトでは、経営コンサルタントの先生は販路について、税理士の先生は融資を含む資金面について助言をくれました。それぞれの先生から異なる視点での力添えをいただけるので、私の経営判断の精度が高くなっていると思います。
Q.今の顧問税理士からのアドバイスで特に印象に残っているものはありますか?
山元:主力商品である大型遊具には、広い保管場所が必要です。現在、倉庫は2ヶ所にあるのですが、「今の事業規模を考えると3ヶ所目を作るのはしばらく待ったほうがいい」というアドバイスをいただき、私としても同感だなと思いました。私の経営判断を数値をもとに客観的に評価して、時にはアラートを出してくれるので助かっています。
他にもこんなアドバイスをいただいたことがあります。弊社はコロナ禍が深刻化した2020年まで、ずっと黒字経営を続けてきました。それまでは金融機関から融資を断られたことは一度もありません。「ピンチになった時のために、政府系の金融機関とも付き合っておいたほうがいい」と先生はおっしゃるのですが、あまりピンと来ませんでした。ですが、コロナ禍になってはじめてその意味がわかりましたし、先生のアドバイスに従っておいて良かったとも思います。無利子の融資を受けられたのも、先生の力添えのおかげです。
いい税理士の条件は、誤った経営判断を正してくれること
Q.コロナ禍は目下、第五波を迎えていますが、今後の業績の見通しはいかがですか?
山元:現在も相変わらずイベントの中止は続いていますので、本業である大型遊具のレンタルは厳しい状況です。ただ新規事業の簡易陰圧室や、子ども向けの工作キットなどは売れ行きが好調なので、当面の目標としていた売上高前年比5割減は達成できる見込みです。
簡易陰圧室は何度も買い替えるものではありません。全国の医療機関にいったん行き渡れば、それ以上の成長は望めない性質の商品です。頭打ちになる前に次の事業戦略を打ち出さなくてはなりません。そのためには顧問税理士の先生の力添えが必要です。
Q.山元さんが思う「できる税理士」の条件を教えてください。
山元:できる税理士さんの条件はまず、経営判断をするために必要な情報を提供してくれること、そして相談しやすいことだと思います。また会社を応援する姿勢を持つ一方で、シビアな目を向けてくれることも大切ではないでしょうか。リスクが発生する際や、危険を伴う投資などに対しては客観的なアドバイスをくれ、経営者の誤った判断を正しながら寄り添ってくれる方が優秀な税理士さんだと思います。
Q.最後に、今後の目標を教えてください。
山元:私たちの住む宮崎県は雇用の受け皿が少ないため、若者の県外への流出が止まりません。起業家、経営者、そして人間としての私を育ててくれた宮崎県に、雇用を生み出すことで恩返しがしたいと思っています。今は総勢27人のスタッフでがんばっていますが、100人規模の会社にするのが当面の目標です。
* * *
山元さんが率いるワン・ステップは、宮崎県の優良企業として知られています。コロナ禍に苦しみながらも次なる一手を模索する山元さん。その隣には、経営参謀として顧問税理士がしっかりと寄り添っているようです。
その他の中小企業社長インタビュー記事はこちら
取材協力 株式会社ワン・ステップ
この記事をシェアする