3年連続「解約ゼロ」の若手税理士、ポリシーは「社長のライフプランに寄り添う」

税理士の顧問料の下落が続いています。税理士の登録者数は増加傾向にあり、競争の激化により記帳代行や税務申告といった従来業務の価値が薄れているのが一因とされています。

一方で、高い顧問料を維持しながら3年連続で解約ゼロを実現している税理士さんがいます。大阪府大阪市に事務所を構える税理士法人森本会計の森本琢磨さんです。

森本さんはどうやって顧問先からの信頼を得てきたのでしょうか?そして何をやりがいとしてどんなポリシーを掲げて仕事をしているのでしょうか?その答えに迫ります。

お話をうかがった人:税理士法人森本会計/森本琢磨さん
2003年にあずさ監査法人に入所し、会計監査業務に従事する。2007年に独立開業し、2012年に森本憲正税理士事務所に参画。2015年7月に税理士法人森本会計を設立(森本憲正税理士事務所を改組)、代表社員に就任して現在に至る。お客様とのコミュニケーションを何よりも大切にし、経営者のライフパートナーでありたいと願う税理士として活動中。ホームページはこちら

失敗から学ばない税理士は成長できない

「森本先生、それ以上の説明はもうけっこうです――」。顧問先の社長が発したその一言に、若かりし頃の森本さんはショックを受けたそうです。

森本さんがまだ駆け出しの代表税理士だった頃、新しく獲得した顧問先が決算を迎えることになりました。顧問先の社長から「決算の見込みなどについて質問したいことがある」との依頼を受け、現地に向かう森本さん。必要な資料一式を作成し、準備は万端。顧問先に着いて意気揚々と説明を進めます。

森本さん記事丸アイコン森 本
自分で言うのもなんですが、立派な資料を作ったと記憶しています。説明に間違いがあったとも思いません。今期の決算の着地はこれくらいの数字になりそうだとか、税金はこれくらいになるとか、その他の質問についてはわざわざ税法の根拠となる条文を説明したりしました。

ところが、はじめは朗らかだった社長の顔が見る見るうちに険しくなっていき、ついに冒頭の一言が飛び出したのです。追い帰されるかたちとなった森本さん。帰路につく電車の中で社長とのやり取りを反芻し、社長が発した言葉の意味を考えたと言います。

森本さんの説明に誤りや曖昧さはなく、むしろ丁寧すぎるくらいでした。何が問題だったのだろうと必死に考察した結果、一つの答えが見えてきます。森本さんの説明は、相手の立場に立ったものではなかったのです。

森本さん記事丸アイコン森 本
例えば経理や税務についてそれほど詳しくない経営者に「社長、これは損金になりません」とか「課税所得はいくらで」と専門用語を並べて説明しても、なかなかピンとは来ないと思います。退屈にもなるでしょう。その時の私の説明は正確ではあったものの、専門用語を並べ立てて「専門家として難しいことを知っているんだ」と言わんばかりのものだったかもしれません。そりゃ、社長さんだって「もうけっこうです」とおっしゃいますよね。

この一件があって以来、森本さんは相手の知識レベルや経験に合わせて説明を変えるように心がけていると言います。ある経営者には「社長、これは損金になりません」と伝え、別の経営者には「社長、これは税金を計算する時には経費になりません」といった具合です。

「失敗するなら失敗するで、そこから一つでも二つでも教訓をつかまないと、人としての成長はないと思うんです。それに気づかせてくれた社長には感謝しています」と森本さんは懐かしそうに当時を振り返ります。

顧問先の「潤滑油」として意見の集約を手助けする

もちろん、これまでのキャリアの中で成功体験もたくさん持っています。例えばこんなことがあったそうです。

森本さんの顧問先に規模の大きな会社があります。この会社の役員たちから経営や税務に関する相談をたびたび受けることがあるそうです。

当然ながら各役員は一つの事象に対しても、考え方や理解の度合いが異なります。ある事象について「経常利益をベースに考えるべきだ」と主張する社長に対して、「営業利益をベースに考えるべきだ」と主張する専務。こうした意見の衝突について「先生、どちらが正しいでしょうか?」と聞かれることがあり、森本さんは社内の調整役として役員たちとコミュニケーションを図ります。

社長と専務から主張の根拠を聞き出し、相互に理解を深めるための橋渡しをするのです。すると知識の共有が進み、意思疎通がスムーズになって社長と専務が一致した結論を導き出せるようになります。

「先生、いつも我々の内輪もめに付き合ってくれてありがとう。先生が間に入ってくれると話がまとまるし、知識も整理できる。社内の人間だけで話しても結論がなかなか出ないから、会社の潤滑油みたいな役割を担ってもらえて助かるよ――」。社長からそう言われるたびに、「熱いものが込み上げてきます」と森本さんは話します。

顧問料が高い分、一件一件の顧問先とは深い付き合いを

そんな森本さんはもともと、税理士だった父に「対抗」するため、学生時代に公認会計士を目指したと言います。

森本さん記事丸アイコン森 本
父よりも難しい試験に受かってやろうと思い、公認会計士の勉強を始めたんです。ただ、実際に公認会計士になって監査法人に勤めてはみたものの、なかなかしんどいものがありましたね。企業の監査は、企業のためではなく株主のためにやるものですが、お金は企業からもらうんです。「誰のためにやる」というのと「誰からお金をもらう」というのが一致していないから、企業から感謝されることはありません。監査法人でキャリアを重ねるよりも、中小企業の社長さんと長く関われる税理士のほうがやりがいがあるんじゃないかと思い、この道を選びました。

経営者と長く付き合いたいという思いは現実のものになります。実際、直近の3年を振り返ってみると、森本さんの事務所と顧問契約を解除した企業はゼロ。顧問料が高い分、一件一件の企業ととことん深く付き合う方針を掲げているのです。

契約解除ゼロを実現するには、顧問先とはマメに連絡を取り、「放ったらかしにはしませんよ」という意思表示をはっきりすることが重要だと森本さんは指摘します。さらに関西人らしくお笑いのエッセンスを織り交ぜることも忘れません。

森本さん記事丸アイコン森 本
数字の話ばかりすると社長さんは退屈でしょうから、ちょくちょく笑いをはさむようにしています。やっぱり私は関西人ですから、気取ってばかりいてもしょうがないと思うんですよね。

そう言って気さくに笑う森本さんですが、他方では真剣な一面も見せてくれます。森本さんのこだわりは、「税理士はお客さんの会社の一員」という姿勢にも表れています。

森本さん記事丸アイコン森 本
お客さんの会社がなかったらお金をいただくことができませんし、我々は商売になりません。お客さんがあって初めて成立するのが税理士の仕事です。そういう意味では私たちとお客さんは運命共同体なんです。税理士にはお客さんに添い遂げる覚悟が必要なんだと思います。

森本さんは中小企業の経営者と話をする時、社長自身が将来どうなりたいかというライフプランを大切にしているそうです。例えばクルーザーを所有したい、子供を私立の学校に通わせたいという願望を持つ経営者が相手なら、「だったら社長、これだけの営業利益が必要で、これだけの年収を稼がないといけませんよ」とアドバイスをします。

森本さん記事丸アイコン森 本
実を言えば私、決して数字に強くはないんですよ。税務は税務で大事ですが、社長たちが求めているのは細かい数字ではないような気がしています。それよりも私に期待されているのは、自分の背中を押してくれる一言だと思うんです。税理士にとって本当に大切なことは、一人一人の社長のライフプランに寄り添う気持ちではないでしょうか。すべてはそこから始まるんだと私は確信しています。

*  *  *

取材の最後に「将来の夢は何ですか」と聞くと、森本さんからはこんな言葉が返ってきました。「夢はありません。今がずっと続けばいいと思っています――」。毎日が充実している人にしか言えないセリフです。何よりも人を思うことを大切にする浪花の若手税理士は、たくさんの社長の人生に寄り添いながら、充実した今を生きています。

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