大家さん専門の税理士事務所 スタッフの成長を支える「内省プログラム」とは

wish会計事務所(小林直樹税理士事務所)
代表 小林直樹さん
不動産オーナーを専門に税務顧問サービスを提供するwish会計事務所。代表を務める小林直樹さんは、スタッフにとって働きやすい事務所にすべくさまざまな施策を実施してきました。
給与査定を見直したり、手当を充実させたり。そんな中、昨年秋から導入した「内省プログラム」がスタッフの間で好評を得ていると言います。
wish会計事務所の取り組みを振り返りつつ、内省プログラムの効果についてご紹介します。
お話をうかがった方:wish会計事務所(小林直樹税理士事務所) 代表 小林直樹さん
お客様の95%以上がサラリーマン大家さん・地主大家さんで、代表自身も投資不動産のオーナー。自らの失敗を活かして購入時の戦略・出口戦略・相続対策を税務面からサポート。お客様との対話により、より良いサービスを提供したいため土日も営業している。2,000人以上の大家さんの相談実績には定評がある。
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アパートの所有から承継までをトータルに支援
Q.事務所の顧問先の属性を教えてください。
小林代表(以下、小林):弊社は不動産専門の税理士事務所ですので、お客様は不動産物件の大家さんです。
Q.具体的にどんなサービスを提供しているのでしょうか?
小林:大家さんはアパートを持っていて、家賃収入があります。すると毎月の税金が高いという問題が出てきます。またアパートは誰が相続するのかという点で揉める要因にもなります。不動産を所有してから引き継ぐところまでをトータルでサポートする税理士事務所は少なく、弊社はそこに特化しています。
具体的には、大家さんが税金を安くするには法人を作ることが多いのですが、そのお手伝いをしたり、遺言書の案を弁護士と協力して作ったりといった部分を支援しています。
特に相続に関しては通常の申告業務と比べて件数が少ないこともあり、税理士事務所の中には得意ではないところもあります。他の税理士事務所が申告した案件で、弊社が再申告すると税金が戻ってくることも少なくありません。現地へ足を運び、土地の"あら探し"をして評価を下げて相続税を戻すことなどはよくあります。
また相続対策をしている事務所はあるにはあるのですが、持っている物件のキャッシュフローを良くしましょうとか、利回りを良くしましょうというアドバイスをする事務所は少ないと思います。相続だけでなく、不動産を保有した時にきちんと儲けましょうという部分もお手伝いできるのが弊社の強みです。
Q.事務所のミッションがあれば教えてください。
小林:「人とのつながりを大切にします」というのが弊社のミッションです。例えば相続の場合、相続税が高くなっても故人の意向を汲み取って申告書を作るケースがあります。そうなると、故人と生前にとことん話しておかないとわからないのです。お客様に対しても対話を通して良い道を切り開いていく、スタッフ同士でもお互いを受け入れ合い、より良い意見を出していく。そうしたことが大切だと思っています。
退職者の増加が働き方改革のきっかけに
Q.事務所スタッフが働きやすい環境を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
小林:三つあります。一つはある時期、退職者が多かったことがありまして、是正する必要があったこと。二つ目はスタッフが楽しめる環境がないと、良い仕事ができないという想いがあること。三つ目は税制改正で弊社の仕事の柱が一つ消えてしまったので、事務所内を強くする必要性を感じていることです。
Q.柱の一つが消えたというのはどういうことでしょうか?
小林:お客様が物件を購入した際に消費税分を還付でき、それが弊社にとっても良い収入源になっていたのですが、税制改正の結果、一昨年の10月からできなくなりました。その分を補填するためにもスタッフにがんばってもらう必要が生じたのです。
Q.スタッフが働きやすい環境を作るうえでどんなことに取り組みましたか?
小林:「あしたのチーム」という人事評価システムを導入し、給与査定の公正化を図りました。スタッフが10人くらいの頃は「がんばったからこれだけ上げるね」という具合で僕の感覚で昇給してもらっていたのですが、それでは僕自身も疲れますし、スタッフも何をやったら給与が上がるのかが見えないのでなるべく機械的にしたかったんです。
「あしたのチーム」を導入したのは、これをやれば給与があがるよ、ということを明確にするためです。このシステムで「成果の基準」と「行動の基準」を決め、それらに基づいて査定をすることで公明正大になったと思います。
他にも手当を拡充しました。例えば誕生日手当や、パソコンやスーツを買った時に補助するビジネス手当、事務所のブログを多く更新した人に支給するブログ手当などを始めました。
Q.事務所の生産性を高める必要性を感じたことはありますか?
小林:先ほど申し上げたとおり、税制改正によって売上の柱の一つを失ってしまいました。しかしスタッフの給与は下げたくないので、やはり生産性を上げていくしかないと思っています。それも内省プログラムを取り入れた理由の一つです。
内省プログラムでスタッフの悩みがわかるように
Q.内省プログラムのことをはじめて聞いた時はどう思いましたか?
小林:正直、よくわからないというのが率直な感想でした。ただ、お試し期間もありましたし、これによって何かが変わるのであれば、という期待を込めて導入することにしたんです。
僕たちは毎年、何らかのクラウドサービスを導入していまして、例えば過去には哲学的理論の一つである「知識学」を習ったりしました。その延長で内省プログラムも試してみたんです。
内省プログラムでは、提供元の株式会社eコンサルティングジャパンのベテランコンサルタントがスタッフ一人一人と面談し、内省を促すことで前向きなアクションにつなげるというものです。
本来はコンサルタントではなく、事務所内の誰かが果たすべき役割なのかもしれませんが、日々の業務に追われる状況では難しいものがあります。また内部の人には、なかなか本音を言いづらいということもあると思います。
Q.内省プログラムのどんな点が有効でしたか?
小林:スタッフの抱えている悩みに気づけた点です。スタッフにはそれぞれ目標があり、そこに到達するために何をすればいいかという悩みがあります。コンサルタントとの話し合いの中で方向性を見つけ、対処法にまで落とし込めるところが内省プログラムの良いところだと思います。
仕事の打ち合わせで時間を取られることはあっても、仕事のやり方そのものについて検討する時間を取ることは難しいので重宝しています。
Q.具体的にどんなことをするのですか?
小林:例えば残業が多いという課題を持つスタッフがいるとします。これを是正するにはどうすればよいか自分自身で振り返り、アクションプランを立てます。それについてコンサルタントがアドバイスをして気づきを与えてくれます。多くのアドバイスは実践的なものなので、スムーズに初動につなげられます。
Q.内省プログラムを導入する前と後でどんな違いが生じましたか?
以前だったらあきらめてしまうようなケースでも、あきらめずに対策を立てていく感覚は少しずつ身についていると思います。導入してまだ半年なので、数字として表れるのはもう少し先になると思います。
Q.今後の目標を教えてください。
大家さん専門の事務所として、地元の板橋区でナンバーワンを目指しています。「アパート運営に関する悩みならwish会計事務所に聞けば解決する」と言われるくらい知名度を上げていきたいと思っています。
また良いサービスをたくさんのお客様に提供したいという観点では、現在いる35人のスタッフを拡充し、100人規模にしたいと思います。
究極的には税務に限らず、大家さんのコミュニティを作ることが目標です。お客様同士が気づきを与え合う「大家さんの学校」みたいなものを作れたらいいですね。
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内省プログラムを導入して半年だというwish会計事務所。生産性向上や離職率低下など、具体的な数値として成果が出るのはこれからかもしれませんが、小林さんは手応えを掴んでいるようです。
多忙な代表税理士は一人一人のスタッフに対してじっくり話を聞き、本音を引き出す時間が取れないケースもあるでしょう。内省のプロに任せてみるのも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか?
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