コロナ禍が追い風に 資金繰り支援を手掛ける税理士が高い顧問料を得られる理由

コロナ禍の影響を受け、平時では相談に来ない顧客が税理士事務所を尋ねてくることがあります。とりわけ資金繰りで苦労している観光業や飲食業などの経営者が、藁にもすがる思いで税理士を頼るケースが増えています。資金繰りと事業承継の支援を二本柱として活動する伊東徳恭さんも、コロナ禍を追い風として顧客を増やした税理士の一人。「経営者と金融機関との間に入り、"通訳"をするのが私の仕事です」と語る伊東さんに、高価格帯での顧問契約を勝ち取る秘訣を伺いました。

資金繰り支援に特別な技術は必要ない

大学卒業後、税理士事務所や税理士法人でキャリアを重ね、3年半ほどメガバンクに出向したこともある伊東徳恭さん(伊東徳恭税理士事務所 代表)。その経験を活かし、中小企業の資金繰り支援を柱の一つとしてビジネスを展開しています。

コロナ禍が追い風に 資金繰り支援を手掛ける税理士が高い顧問料を得られる理由の丸アイコン伊 東
利息を収入源とする金融機関は、基本的にお金を貸したいと思っています。中小企業の側は当然、お金を借りたいと思っています。両者の思惑は一致しているのですが、立場の違いから話す内容がかみ合わないことがあります。その間に入ってスムーズな意思疎通を図るよう通訳するのが私の仕事だと思っています。

例えば金利をめぐって金融機関と経営者の意見がぶつかることがあります。そんな時に伊東さんに出番が回ってきます。

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経営者は利息の負担を軽減させたいため、金利を下げてほしいと頼んできます。金融機関は利息は収入源であるため、下げられては困ると主張します。そもそも今は超低金利の時代です。金利が1%だとしたら1,000万円借りても利息は年間10万円にしかなりません。このことを冷静に伝えると、ほとんどの経営者は納得して融資を受けます。

「私は何も特別な技術を使っているわけではありません」と謙遜する伊東さんですが、何をどのように通訳するのかについては、踏んできた場数の多さがモノを言います。

他社の事例を示して経営判断の材料を提供する

コロナ禍に入ってから多くの企業が打撃を受けていると報道されていますが、実際に痛手を被っているのは限られた業種だけで、中には過去最高益を更新した企業も少なくないと伊東さんは指摘します。

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特にコロナ禍が税理士業界に与えた影響として挙げられるのは、顧問先が顧問税理士を代えやすくなったことだと思います。例えば親の代からお世話になってきた顧問税理士との契約を打ち切り、私のところへ相談に来る方もいらっしゃいます。平時ではそうした判断はしないと思います。資金繰りが喫緊の課題となっているため、背に腹は代えられないという想いで顧問税理士に断りを入れる、という苦渋の決断をしたのだと思います。

伊東さんは相談に来る顧客に対して、他社の事例をできるだけ多く引き合いに出すことを心がけていると言います。経営者がいちばんほしいのは、自身にとってはブラックボックスである「他社が何をやっているか」という情報だからです。この情報こそが、経営判断に資するものなのです。

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多くの経営者から話を聞けることは税理士の特権です。我々には情報が集まってきます。当然ながら秘密保持契約は守りますが、他社の情報を参考事例として他のお客様にお伝えします。お客様が成功体験は手本として、失敗体験は教訓として経営判断に活かすよう手助けをするのです。

税理士が税務や記帳代行で差別化するのは困難です。そうした業務を続けるだけでは価格競争から抜け出すこともできません。逆に顧問先の経営判断に資する情報を提供できると、伊東さんのように顧問契約の単価は自然と上がっていきます。

顧問契約の単価を上げるために、もう一つ大切なことがあると伊東さんは指摘します。それは、経営者と長期にわたる関係性を構築したうえで、将来的に何をやりたいのかというビジョンを共有することです。

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過去の経営数字や目の前の課題を解決することも、もちろん重要です。どちらもおろそかにはできません。ただ、お客様が真の意味で価値を見出すのは、未来のビジョンを共に実現するパートナーとしての税理士だと思います。お客様が望む形でビジネスを継続させ、次世代に事業承継することが私たちの目指すゴールです。

社長のビジョンを数値化して目に見える形にする

資金繰り支援と事業承継支援を二本柱とする伊東さんですが、開業した当初は税務にも力を入れていたと言います。

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経営者が税金のことを気にするのは、無駄なお金を払いたくないからです。その観点で考えると、税務以外にも税理士がサポートすべきものがあることがわかります。例えばお金を増やしたいのであれば、金融機関から借入をすることも選択肢の一つとして考えられます。さらに、金融機関から借入をした経営者がビジネスを成功させてある程度の年齢に達したら、事業承継をどうするかという話になります。もともと注力していた税務から、資金繰り支援や事業承継支援に軸足を置き換えたのは、ごく自然なことだと思っています。

また経営者のパートナーを目指す税理士は、企業の業績向上に貢献することが大切だと伊東さんは語ります。実際、伊東さんの事務所では経営計画立案の支援をサービスとして提供しています。具体的には社長のビジョンを数値化して目に見える形で示すのだそうです。

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社長が考えていることが実現したら5年後はこうなります、といった具合に数値を示し、経営者が判断しやすい状況を作ります。決めるのは社長自身なので、私たちが行うのはあくまでも情報提供やフォローまで。選択肢を並べてそれぞれのメリットとデメリットを説明し、社長に経営判断を委ねるのです。

これまで以上に長く、深い付き合いを

コロナ禍が追い風となって高単価の顧問先を増やしている伊東さん。その秘訣は事務所の業務内容を資金繰り支援と事業承継支援に特化させていることです。今後の目標について伊東さんは、事務所の規模を拡大させることと経営者とさらに長期にわたって関係を深めていくことを挙げます。

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お客様が増えてきたため、事務所の規模を拡大する必要性を感じています。ただ、どんなに規模を大きくしても一人ひとりのお客様との関りは、これまでと同様に長く、深いものでなければなりません。長く、深く活動をする中で、お客様の経営判断に資する情報を提供し、その成長を支えていきたいと思っています。

経営判断の選択肢を提供することで、顧問先の業績向上を支える伊東さん。かつて自ら手を挙げてハードワークで知られる資産税部門へ移動したほか、メガバンクに出向した際、経営者や富裕層向けに株価対策などを提案する部署でキャリアを積み、その経験が今に活きていると振り返ります。

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銀行員として会う時と税理士として会う時では、経営者は真逆のことを話したりします。どちらが本音に近いのだろうと興味を覚え、やはり経営者にとってはお金の話が大事だと思ったのをきっかけに、資金繰りについて学ぶようになりました。それが今につながっているのだと思います。何事も経験値を上げるために不可欠なものと捉えて、気になることがあれば貪欲に学んでいく積極性が大切だと思います。

*     *     *

税理士の人数が増え続けている一方で、その顧問先となる中小企業の数は減少の一途をたどっています。限られたパイの奪い合いが激化している昨今、これからの税理士には、伊東さんのように自身の得意分野を確立し、他の事務所と差別化することが不可欠だと言えそうです。

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