顧問先の「前方支援」こそが真骨頂 女性税理士のパイオニアが語る仕事の責任とやりがい

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税理士法人福島会計
代表 福島美由紀さん

税理士法人福島会計の代表を務める福島美由紀さんは、女性税理士の草分け的な存在として会計業界を支えてきました。

女性軽視の風潮が色濃く残っていた時代に会計業界の門を叩き、今日までその先頭を走ってきた福島さんに、税理士という仕事の責任とやりがいについて伺いました。

お話をうかがった方:税理士法人福島会計 福島美由紀さん
東京都出身。慶應義塾大学文学部英文学科卒業後、大手商社に入社。1990年、税理士試験に合格。「Always By Your Side」をコーポレートメッセージに掲げ、経営者の悩みに、資金調達相談から経営助言まで幅広い範囲で対応している。著書に『コロナ禍からの立ち直り 財務再建・事業再生ロードマップ』(清文社刊)など。
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DX支援と経営支援を二本柱として

「先生の事務所の強みはどこですか?」

こう聞かれて即座に答えられる人はどれだけいるでしょうか?この質問に対して税理士法人福島会計の福島美由紀さん(代表)は「DX支援と経営支援に強みを持っています」と即答します。

同社の場合、DX支援にしても経営支援にしても、まずは事務所内で自分たちが取り組んで実績を重ねたうえで顧問先向けに外販するのが大きな特徴の一つです。例えばDXについては、福島会計はクラウド型会計サービスが出始めた2010年頃から導入しており、すでに12年の経験を持っています。

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まずは自分たちが試す。そして良いものだけをお客様に勧める。これが私たちのスタイルです。

そう語る福島さんは23名のスタッフを擁する中堅事務所の代表にして、長い間、女性軽視の風潮の残っていた会計業界を生き抜いてきた女性税理士のパイオニアでもあります。

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「女が何の用だ」の声を逆手に取って

大学の英文科を卒業し、新卒として大手の総合商社に就職した福島さん。当時、女性社員は男性社員の補佐をするのが常で、福島さんも例外ではありませんでした。そして女性社員は「良い相手を見つけて早く辞めてください」と公然と言われる時代でもあったのです。

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入社して適性検査を受けたところ、なぜか経理部門に配属されたんです。B/LやFOB、インボイスを英語で作る必要があったからかもしれません。

会社内で簿記の研修を受けさせられたのですが、すごく面白いと感じました。文学という答えのない世界を生きてきた私にとって、明快に答えが出る簿記の世界は新鮮に映ったんです。

その後、結婚、退職、出産を経て子どもが2歳になった頃、福島さんに再び勉強意欲が湧いてきます。その時、商社勤めの頃に学んだ簿記が面白かったことを思い出し、簿記の通信教育を受講。1級に合格した後、先生から「1級に受かったのなら税理士資格が取れますよ」と言われるがまま勉強を続け、半年後の税理士試験で簿記論と財務諸表論に合格。「簿記論と財務諸表論に受かったんなら税法をやらなくちゃ」と言われるとおり勉強を継続し、結局、3年で5科目に合格します。

その間、2人目の子どもを出産するなどプライベートも充実させ、上の子どもが小学校へ上がるタイミングで税理士事務所で勤め始めます。

「私の場合、多くの税理士さんとは違って成り行きでこうなっただけです」と謙遜する福島さんですが、はじめから肝は据わっていたようで、こんなエピソードを持っています。

当時の税理士事務所では、新人が最初に任される仕事は赤字企業の決算で、福島さんもご多分に漏れず業績の低迷している企業を担当します。「世の中には赤字の会社が多いという事実にまずは驚きました」と振り返る福島さん。企業を訪れて「今度、担当させていただく福島です」と挨拶すると「何だ女か、運が悪いな」と露骨に眉をひそめる担当者も珍しくなかったと言います。

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男性社会の中で、きめ細かいサービスやソフトな物腰など、女性の自分だからこそできることがあると思い、逆にやってみようという気持ちになったんです。会社の意思決定者である社長と話ができることにやりがいを感じましたし、悩みを吐露される社長を何とか支えて差し上げたいという想いもありました。

自分が関わった会社の業績が良くなったり、社長から感謝の言葉をかけていただいたりすると、くじけないでやってきてよかったと思います。

特に福島会計を開業してからは、福島さんを一人の経営者として見てくれる顧問先が増え、中小企業経営者との連帯感が強くなったそうです。

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税理士の仕事は後方支援ではなく前方支援

そんな福島さんには、密かに誇りに思っていることがあります。今年で創設20周年を迎える福島会計の歴史の中で、1件も倒産を出していないことです。

過去には担税力のない会社をめぐり、税務署との際どい交渉を経て倒産を何とか防いだこともあります。そうした、いわば税理士バッジを賭けた交渉は時として相手の心を動かし、「そこまで言うならがんばってください」と税務署員から譲歩を引き出せることもあるそうです。

今も志を同じくする弁護士とともに銀行との交渉を重ね、首を縦に振らない銀行を翻意させるため、金融庁に訴えてまで顧問先を支えている福島さん。「守ると決めたからには絶対に守る」という決意の裏には、男性社会に揉まれてきた女性税理士の草分けとしての覚悟が見えます。

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税理士の仕事は後方支援だけではありません。場合によっては前面に立つことが必要だと思っています。

税務署や銀行、お客様の取引先との交渉では、お客様の前に立ってお守りしなければならない時もあると思っています。お客様と同じ立場に立ち、同じ目線で一緒に考える。それができる人が「いい税理士」だと思います。

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公明正大な社内制度がモチベーションを高める

一方で事務所内に目を向けると、DX支援と並ぶ福島会計のサービスの柱として経営支援があります。この経営支援についても「自分たちが実践して確かな手応えを掴んだもの」を顧問先に対して提供しているのです。

具体的には事務所の経営計画をまとめた152ページに及ぶ冊子を用い、スタッフ間で未来図の共有を図っています。この経営計画書は税理士法人に改組した10年前から作っているもので、今もこれを使った理念教育を早朝勉強会として行っているそうです。

一般に、経営計画と言うと経営や事業に関するものを連想しますが、福島さんの「人事や人材育成を大切にしたい」という経営方針を反映させる形で、福島会計の経営計画書には人事に関することが多く盛り込まれているのです。

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経営者の重要な仕事の一つは、同じことをずっと言い続けることだと思います。もちろん変えていくべき部分は変えていきますが、核となる考え方は同じです。そのことをブレずに言い続けることが、事務所のスタッフにとっての羅針盤になるのだと思います。

経営計画書は事務所やスタッフ自身の未来像を示すだけでなく、人事評価制度にも紐づくものです。同社では①事業貢献、②組織貢献、③自己成長という三つの軸で目標を立て、各自の目標を達成した時には自分の給与がどうなるか、を明確にしているのです。

加えて経営計画書には、各スタッフが進むべきキャリアステップも明記しており、例えばマネジメントコースに進んだスタッフは組織内での独立も可能になっています。

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多くの企業と同じように、会計事務所も人がいてこそ成り立つものです。経営計画書には、人を大切にしたいという私たちの想いが込められています。ここまでできれば給与はこうなる、将来に向けてこういうキャリアステップの選び方がある、ということを公明正大に示しているのです。

もう一つ、福島さんが大切にしているものは、キャリアの長さにかかわらずスタッフ同士が切磋琢磨し合える環境です。

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会計業界には毎年、税制改正があります。どんなにベテランになっても勉強を続けなければなりません。その意味では、いつまでも向上心を持ち続けることが大切です。向上心さえあれば、若い人にも、女性にも、いくらでもチャンスがある世界だと思います。

*     *     *

福島さんはコロナ禍が広がる前まで、機会に恵まれて大学の学生に向けて税理士という職業について講義をしていました。その際、こんなことを話していたそうです。

「社長になりたいと思う人は少なくないものの、自分で経営できるのはせいぜい2社か3社くらい。税理士は、お客様である社長という存在を通して100社も200社もの経営に関われます。こんなに楽しい仕事は他にないと思いませんか?」

時として税理士バッジを賭ける覚悟で顧問先を守り、時として学生たちに優しい口調で語りかける福島さん。どちらも偽らざる本音の自分であり、本気の言葉です。

小学校へ上がる長女の成長を眺めながら、門を叩いた会計業界。長女も公認会計士の道に進み、今は母となり、福島さんも初孫に恵まれました。時は流れ、会計業界のあちこちに、福島イズムを継承する多くの若い才能が今、花咲こうとしています。

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