内向的、口下手な税理士さん必見!経営者の本音を引き出す「3つの質問」とは?
経営者の本音を引き出すことができれば、経営支援をはじめとする「いい税理士」としての業務がうまくいくことは容易に想像できます。通常、腹を割って話す間柄になるには時間がかかるものですが、一足飛びに相手の本音を引き出す質問のテクニックがあります。この記事では、書籍『本音を引き出す「3つの質問」』の著者である渡瀬謙さんに、その質問術について伺います。内向的な性格で口下手だと自認する税理士の方は、ぜひ参考にしてください。
表ニーズと裏ニーズの存在を知ろう
「相手の本音を引き出すのに、外向的な性格や性根の明るさは必要ありません」と渡瀬謙さん(サイレントセールストレーナー、有限会社ピクトワークス代表取締役)は話します。渡瀬さん自身、子どもの頃から内向的で口下手な性格でしたが、質問のテクニックを発見したことで、大手情報企業で全国一位の営業成績を収めるまでになりました。その時に発見し、実際に使ってみたテクニックが、書名にもある「3つの質問」なのです。
書籍から具体例を引用します。まずは悪い例からです。カーディーラーの販売員になったつもりでご覧ください。
悪い例:カーディーラーでの接客
販売員A 「いらっしゃいませ。今日はおクルマをお探しでしょうか?」
お客さまA「そうです」
販売員A 「どういったおクルマをお探しですか?」
お客さまA「ワゴン型で7人乗りくらいのものを考えています」
販売員A 「そうですか、それでしたら当店にはいくつかありますので、今カタログをお持ちしますね……これらの車種になります」(カタログを見せる身振りをしながら)
お客さまA「なるほど」
販売員A 「ちなみに色の好みとかありますか?」
お客さまA「そうですね~、あまりこだわっていないですね」
販売員A 「ではエンジンの排気量などはどれくらいを検討されていますか?」
お客さまA「その辺もまだ具体的に考えていません」
販売員A 「なるほど。他のメーカーさんも回られたりしていますか?」
お客さまA「いえ、ここが最初です」
販売員A 「ではこのあとどこか回られますか?」
お客さまA「そうですね、2~3軒回るつもりです」
販売員A 「ぜひうちでご検討いただければと思います」
お客さまA「まあ、いろいろ見てからですね」
販売員A 「よろしければ、お見積もりをさせていただきましょうか?」
お客さまA「そうですね、ではお願いします」
※引用元 本音を引き出す「3つの質問」
続いて良い例を示します。まったく同じシチュエーションですが、販売員の会話の切り口が少し違うことがわかります。
良い例:カーディーラーでの接客
販売員B 「いらっしゃいませ。今日はおクルマをお探しでしょうか?」
お客さまB「そうです」
販売員B 「どういったおクルマをお探しですか?」
お客さまB「ワゴン型で7人乗りくらいのものを考えています」
販売員B 「なるほど、ワゴン型で7人乗りくらいのおクルマをお探しということですね」
お客さまB「はい、そうです」
販売員B 「そうですか。ちなみに今まではどのようなおクルマでしたか?」
お客さまB「2ドアのコンパクトカーです」
販売員B 「そうですか、では今回は買い替えということですね?」
お客さまB「そうですね」
販売員B 「コンパクトカーから7人乗りのワゴンへの買い替えをご希望ということは、例えばご家族が増えたとか、でしょうか?」
お客さまB「はい、そうです」
販売員B 「差し支えなければ、どなたが増えたのか教えていただけますか?」
お客さまB「両親と同居するんです」
販売員B 「なるほど、ご両親と同居するので7人乗りくらいのクルマが必要になったのですね」
お客さまB「そうですね」
※引用元 本音を引き出す「3つの質問」
良い例の販売員Bは、お客さまが7人乗りのワゴンに買い替えたい理由を聞き出しています。この理由こそが「裏ニーズ」なのだと渡瀬さんは指摘します。
未来を知りたければ過去を聞こう
では裏ニーズはどうやって引き出せばよいのでしょうか?そこでカギを握るのが、3つの質問です。
ニーズとはこれから先のこと、すなわち未来を指します。しかしいきなり未来のことを聞いても裏ニーズにはたどり着きにくいと渡瀬さんは指摘します。
この観点で振り返ってみると、先ほどの良い例では、販売員Bは確かに過去の質問と現在の質問を織り交ぜていることがわかります。販売員Bが裏ニーズにたどり着いたのには、きちんとした理由があったのです。
税理士にとっての3つの質問とは?
税理士の場合、経営者に対して「この会社を今後どうしていきたいですか?」と聞くシーンがあると思います。ただ、これは未来の質問です。未来のことを聞きたければ、過去と現在について順に聞いていきましょう。
例えばこんな展開はいかがでしょうか?飲食店のオーナーシェフを相手にして、その本音(裏ニーズ)を引き出すシーンです。
税理士「①社長はどうしてこのお店を作ろうと思われたんですか?」
社長 「地元のみなさんに、美味しくて手ごろな値段の料理を楽しんでもらいたかったからです。料理人を目指した頃から、将来は自分の店をオープンさせたいと思っていました」
税理士「②その思いは実現できたようですね?」
社長 「ええ。ただこの店は途中まではうまく行ったんですが、今は正直かなり厳しい状況になっています」
税理士「コロナの影響ですか?」
社長 「そうです。一昨年までは行列ができる日もあったのですが、今はさっぱりです。テイクアウトを始めてはみたものの、焼け石に水です……」
税理士「やはりそうですか。飲食店を経営されている方はみなさん苦労されていますよね。③このお店は今後どうしていきたいですか?」
社長 「続けていきたいとは思っていますが、資金繰りに余裕がないのでどうしたものかと思案しています」
税理士「なるほど。社長の場合、国や県からの補助金を受け取れる可能性があります。金融機関もコロナ対策として無利子の融資を行っています。お店の状況について、詳しい話を一度聞かせていただけますか?」
社長 「ぜひお願いします」
下線を引いた①が過去の質問、②が現在の質問、③が未来の質問です。このように順を追って聞いていくことで、本来なら警戒心を持つはずの初対面の相手からも、自然な形で本音を引き出すことができます。
弱点を隠すのではなく積極的に語ってみよう
渡瀬さん自身、かつては営業は営業らしく振る舞わなければいけないという思いを持っていたのだとか。ところがそういう思いを捨て、自分の性格をそのまま出すようにしたら、お客さまから受け入れられるようになったそうです。「営業は営業らしく、税理士は税理士らしくしなければいけない、というのは思い込みです。素のままでお客さまと接するほうが、信頼される存在になれると思います」と渡瀬さんは話します。
以前は自身の内向的な性格にコンプレックスを持っていた渡瀬さんですが、本書を出版するにあたりそのことを認め、「自分はこういう人間です」と堂々と公表したことで、多くの人から認められるようになったと言います。
この記事をご覧になっている内向的な税理士の方、みなさんもご自身の個性を大切にしつつ、顧問先の経営者と話をする時はぜひ3つの質問を思い出してみましょう。
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