残高2万円の窮地を救え!経営者の想いを数字で支えるのが私の仕事

中小企業の業績向上に貢献する「いい税理士」を目指すうえで、税理士には具体的にどのような活動が求められるのか。今回は2019年8月にMikatus(ミカタス)が開催した「いい税理士座談会 in 大阪」にご参加いただいた、税理士法人キーストーン神戸の藤本隆さんにお話を伺いました。

「いい税理士座談会 in 大阪」の内容については「 経営者のハートに火をつけろ!中小企業の業績向上に貢献するための心得 」をお読みください。

すばらしい理念を掲げ、売上も順調。なのに常に資金不足で預金残高はわずか2万円。そんな青果店の事業を好転させるために、藤本さんはどのような支援をおこなったのでしょうか。経営者のビジョンを実現するために、数字で経営を支えた事例をお届けします。

▼支援により達成した成果
・顧客単価が30%増加
・限界利益が16%から25%へ増加
・役員報酬が20%増加
※いずれも直近5年での成果

売上は好調!理念もすばらしい!しかし、財務状況を見て愕然とした

支援を始めた当時の顧問先の状況について教えてください

兵庫県内に2店舗を出店している青果店になります。

経営者は創業者で30代前半と若く、「本当にいいものを、安い価格で提供する」という強い信念を持っていらっしゃいました。お客さん、スタッフ、みんなで喜びを分かち合いたいという想いも強くお持ちでした。

スタッフには元々このお店のお客さんだった人もいて、みんな野菜と果物が大好きで熱い人たちです。学歴が高いスタッフも多くいました。経営者の明確なビジョンに共感したスタッフや、このお店のことが大好きなお客様に恵まれ、売上は1店舗で1億円を超えるほどでした。

素晴らしい理念に能力の高い経営陣。売上も好調で、「いい会社やん!」というのが最初の印象でした。

しかし、財務状況を見せていただくと、想像していた以上に厳しい状況でした。売上が好調であるにもかかわらず、毎年、数百万円の赤字を計上している状態だったのです。

青果店の粗利益は売上の約25%が一般的です。しかし、この会社の粗利益は15.8%でした。毎月の財務状況をきちんと把握できておらず、数字に基づく意思決定ができていなかったのです。各店舗の数値管理やオペレーションは店長に属人化しており、組織としての店舗運営ができていませんでした。その結果、慢性的な資金不足に苦しんでいたのです。

「お金がない」が経営者の口癖だったため、通帳の残高を見せてもらったところ、なんと2万円程しか残っていませんでした。これはイカンと直感し、支援をご提案させていただくことにしました。

▼顧問先の概要

業種 青果店
所在地 兵庫県
売上規模(年商) 1億円以上 3億円未満
役員・従業員数 8人
業歴 約8年
代表者の年齢 30代

経営者だからって、みんなが数字に強いわけじゃない 

業績を改善するために、何から取り組まれたのでしょうか。

まず最初に、経営者の気持ちを確認しました。「事業を続けたいのですか?」と率直に聞きました。経営者の答えはもちろん「続けたい」。お客さんに喜んでもらいたいし、スタッフにも喜んでもらいたい、その気持ちは変わらず強くお持ちでした。

藤本 隆 様 by Lanchor(ランカー)

事業を成功させるためには、会社や顧客に対する強い想いだけでなく、日々の経営数字をしっかりと把握し、それに基づいてアクションすることが重要です。

しかし、経営者だからといって必ずしも数字に強いわけではありません。仮に数字に明るかったとしても、中小企業では経営者自身が日々の業務に追われていることがほとんどです。そんな状況で、経営者1人で数字のモニタリングを継続していくのは簡単なことではありません。

この顧問先さんでは、経営数字を把握している人が誰もいないという状況でした。商品の値付けも各店舗の店長に任せっきり。一方の店舗では100円で売られているほうれん草が、もう一方の店舗では90円で販売されているなど、店舗によって価格がバラバラだったのです。

また、支援を始めたころは青果店の他に飲食店も経営していました。にもかかわらず、部門管理を全くしていない。まさに、どんぶり経営でした。全社での会議はおこなっていたものの、議論の内容は扱う商品やサービスについてのみ。数字に関する戦略的な会議もできていなかったのです。

そうした状況を踏まえ、財務・経理体制の整備に一緒に取り組み、継続的に数字をモニタリングして、経営のPDCAサイクルを回せるように取り組みました。

具体的にはどのような取り組みをされたのでしょうか。

まず、数字をちゃんと把握できるようにするために、各店舗毎に一日のお金の流れを記録してもらいました。日々の入出金をきちんと把握してもらい、部門管理を徹底してもらったのです。

各店舗毎に、来客数や顧客単価などのモニタリング項目を定め、数値計画も作成してもらいました。達成できたのか、できなかったのかを毎月しっかりと確認し、なぜ達成できたのか、できなかったのかを振り返ってもらいました。

田中常彦様(左)と藤本隆様(右) by Lanchor(ランカー)

収益面についても、どれくらい売れば利益が出るのかを把握してもらう必要がありました。変動費と固定費を明確にして損益分岐点を分析しました。売上目標を明確にしたうえで、コストを下げるための取り組みもおこないました。各店舗で自由にしていた仕入も、スケールメリット(大量仕入れによる値引きの恩恵)を得るために会社全体で一括仕入をしてもらうようにしました。

野菜や果物は足が早いので、その日のうちに売り切るために値引きすることがあります。しかし、売れ残ることが不安で、必要以上に早く値引きしてしまっていました。しかも、値引き額やタイミングは、やはり店舗毎にバラバラでした。

そこで、値引き額や値引きのタイミングに関するルールを作ったり、チャットツールを使って常に店舗間で情報共有したりして、値引きの金額やタイミングを決めてもらうようにしました。その結果、価格をコントロールすることができるようになり、客単価も30%ほど向上しました。

経営者の腑に落ちる言葉を。そうでなければ成果には結びつかない

成果が出た要因、ポイントは何だったのでしょうか?

成果が伴ったのは、意欲的に改善に取り組んでくれた経営者をはじめ、スタッフが頑張ったからです。元々、理念は素晴らしいものをお持ちでした。ただ、その想いを形にする方法がわからないということが、上手くいっていなかった原因だと思います。

藤本 隆 様 by Lanchor(ランカー)

経営陣やスタッフの方はみなさん、若くて優秀な方たちばかりだったので、私がお伝えしたことを要領よく実践してくれました。一緒に取り組んでいく過程で、「なぜお客さんが増えたのか」「お客さんは何に満足してくれたのか」を考えるようになってくれました。

この会社の「良いものを安く」という理念はいいのですが、安すぎました(笑)。自分たちが「お客さんのために価格だけに留まらない価値を届けられる」ということに気づいて貰えたのが、大きかったのではないでしょうか。

中小企業の経営支援が上手くいくかどうかは、経営者の腑に落ちる言葉を投げかけることが出来るかどうかにかかっています。今回で言えば、最初のころにお伝えした「100円の価値がある商品を90円で売ることは、誰でもできる」という言葉が、経営者に効いたのかもしれません。安くする事だけが、自分たちの理念を実現する方法ではない。会社を存続させなれば、自分たちの想いをお客様に届けることもできない。そのことに気づいてもらうきっかけになったように思います。

青果店を取り巻く経営環境はこれから厳しくなります。大手の通販サイトでも野菜を売り始めました。大手スーパーもこれまで扱わなかったような珍しい野菜を店頭に揃え始めています。この顧問先の経営者も将来には危機感を持っており、いろんなことを考え始めています。その考えを形にしていく支援を、これからも続けていきたいですね。

 

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