税理士のエゴは不要!下請中小企業が値上げを決断するまでのプロセス

税理士のエゴは不要!下請中小企業が値上げを決断するまでのプロセスのアイキャッチ

中小企業の業績向上に貢献する「いい税理士」になるためには、どのような活動をしていくべきなのでしょうか。今回は2019年8月に開催された「『いい税理士』座談会 in 大阪」にご参加いただいた税理士法人 小澤事務所の小澤哲二さんにお話を伺いました。

>>「いい税理士座談会 in 大阪」の内容についてはこちらをお読みください。

小澤さんのお話は、大手メーカーに部品を納品する製造業の会社が舞台。収益向上を実現するために、小澤さんはどのような支援をされたのでしょうか。

▼支援により達成した成果
・前期比 売上 60% 増収(見込み)
・前期比 粗利益率 10% 増加(見込み)

「忙しい」と「難しい」が口癖。仕事を受けるほど赤字に

Q.顧問先さんの当時の状況について教えてください

大手企業を取引先に持つ、滋賀県の製造業の会社さんです。
いつも目一杯に仕事を受注しているにも関わらず、常に資金繰りに苦労されていました。経営者や従業員さんの口癖は「忙しい」と「難しい」。取引先や金融機関から厳しい取引条件を課せられ、十分な採算がとれず、仕事を受ければ受けるほど赤字になってしまうという状況でした。

製造業の中小企業に多い、いわゆる「下請け」の会社さんです。大手企業から仕事の依頼を受ける際に、渡されるのは仕様書のみということがほとんど。サイズや寸法、耐久性や求められる機能などがざっくりと書かれているだけで、明確な設計図はありません。
こうした依頼に対して、材料費や労働力を投資して、試行錯誤してサンプル品を作ります。他社とのコンペになることもありますが、正式に採用されれば正規品を量産して納品することができます。そして納品して初めて、この会社の売上となるわけです。

▼顧問先の概要

業種 製造業
所在地 滋賀県
売上規模(年商) 1億円以上 3億円未満
役員・従業員数 10人
業歴 6年
代表者の年齢 50代

まずは資金繰りの改善で当座をしのぐ。しかし根本的な問題は…

Q.どのように収益性の向上を実現することができたのでしょうか

まずは、経営を圧迫している資金繰りを改善する必要がありました。キャッシュの残高や業績をタイムリーに把握してもらうために、試算表の作成を早期化し、経理の精度を高めることに着手しました。

小澤哲二様 by Lanchor(ランカー)

弊社の担当者と、お客様の経理担当者との連絡を密におこない、毎月の仕掛案件についても計上して月次損益の精度を高めました。
また、回収サイト(※売掛金を計上してから、実際に資金を受け取るまでの期間)を短くする努力もしました。これも中小企業の製造業にはよくある話ですが、最終顧客である大手企業と直接口座を開いて取引することは珍しく、商社などの仲介役が間に入ることがほとんどです。大手企業から商社へ、商社から中小企業へと順番に支払われるため、回収サイトがどうしても長くなってしまいます。今回は、間に入る商社に働きかけることで、回収サイトを短縮する事ができました。
もちろん、金融機関に対して協力や調整のお願いもしました。金融機関と一口にいっても、支店長によってその考え方が変わることもあります。そういった点も考慮しながら、良好な関係を築くことで、お客様の資金繰りの改善につながりました。

こうした取引先や金融機関の協力もあり、資金繰りを改善できたことで当座をしのぐことができました。しかし、それは問題の先送りにすぎません。この会社さんは、事業を継続していくにあたり、根本的な問題を抱えていたのです。

業績向上のために必要なのは、経営者の「自信」だった

Q.顧問先の根本的な問題とはなんだったのでしょうか?

自社の製品に対して非常に安い価格設定をしていたことです。この会社さんには、コンペで勝ち残れるほどの技術力があるにもかかわらず、いつも安い価格で製品を提供してしまっていたのです。
大手企業からの厳しい取引条件や金融機関との難しい交渉の中で、必要以上にプレッシャーを感じていたようです。目の前の仕事を受注したいがあまり、価格を高くしたら仕事が無くなってしまうのではないか、という不安が経営者の中に根付いてしまっていたのです。

聞けば、毎回のようにコンペにはなるものの、競争相手は異なる場合がほとんど。相手が変わるのであれば恒常的に価格を下げる必要もありません。とにかく必要だったのは、経営者の自社製品に対する「自信」でした。

小澤哲二様 by Lanchor(ランカー)

そのことに気づいてから、私自身も経営者と何度も価格についてお話しましたが、なかなか値上げには踏み切っていただけませんでした。そこで私が選んだのは「第三者に語ってもらう」という手法です。同じように製造業を営んでいらっしゃる当社のお客様を紹介して三人でお会いしたのです。するとやはり製造業の経営者同士、お二人は共通した話題で盛り上がりました。そして案の定、価格設定の話題にもなり、「御社はちょっと価格が安すぎませんか?」という話になったのです。その一言もあり、ずっと不安を抱えていた経営者も腹を括った様子でした。

その後、思い切って価格を見直し、以前より高価格を提示するようになりました。それでも受注が減ることはなく、単価が上がった結果、売上を伸ばすことができました。

それ以来、「高価格でも受注できる」ということで、会社全体としても自信に繋がっているようです。「難しい」や「忙しい」が口癖だった社員のみなさんも、雰囲気が変わって気持ちよく仕事ができているように見えます。

「いいこと言った!」は税理士の自己満足でしかない

Q.この顧問先さんとのお付き合いで小澤さんご自身も変わったとのことですが?

経営者と接するときの考え方や姿勢が変わりました。
それまでの自分は、一方的に話をしてしまう人間だったんです。経営に関するアドバイスをしては、「今ええこと言ったな、俺」と自己満足してしまう。一方的にやってほしいことを伝えては、次にお会いした時にやってくれていない様子を見て、「なぜやってくれないんだ」と悶々としてました。
けれどこのお客様とかかわることで、それではダメなんだと気づいたのです。中小企業の経営を支援するうえで一番大切なのは、経営者が自ら動くこと。今では、それをゴールにして経営者と接するようにしています。

もちろん、会計事務所や税理士としてのアドバイスはすべきだと思います。しかし、その会社のことを一番わかっているのは経営者自身ですし、一番会社のことを考えているのも経営者。私たちがアドバイスしたからといって、それだけで考えや行動を変えてくれるわけではありません。
ただ、会社にとっての真の課題が、経営者が認識している課題とは異なる。そんなケースは少なくありません。まずはしっかりと経営者の話を聞き、問いかけを繰り返していく。そして、自分が「違和感」を感じた部分をさらに深堀りしていくことが重要です。この「違和感」を突き詰めていく会話の中で、経営者が本当の課題に気づくことが、「自ら動くきっかけ」になります。

今回のお客様でいえば、「なぜ毎回安い価格を提示せざるをえないのか」という私の「違和感」を掘り下げたところに、「価格設定が低すぎる」という赤字の原因が見えてきました。こちらの「なぜ」に対して、経営者が自分で考え、自分の言葉で話をしていく過程で、経営者自身も「課題は価格にある」と腹落ちしてくれたように思います。

大切なのは、税理士自身の自己満足ではなく、いかに経営者に気づきを与えることができるか。そのことに私自身が気づくことができ、私にとっても大きな意味をもつ経験となりました。

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小澤さんが参加された座談会記事はこちら
>>経営者に「気づき」を与えるために実践すべき3つのアプローチ

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