自計化率9割超 繁忙期の深夜残業をなくした税理士の信念とは

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安達君年税理士事務所
代表 安達君年さん

埼玉県越谷市にある安達君年税理士事務所は、代表を務める安達君年さんが昭和57年3月に設立した老舗の税理士事務所です。同事務所の特徴は、自計化している顧問先が全体の9割を超える点。自計化を進める前、繁忙期には深夜1時までの残業が常態化していましたが、今では遅くとも夜8時には帰宅できるようになったと言います。安達さんはどのように自計化を実現しているのでしょうか?話を聞きました。

始まりは"古紙回収業"

――開業時の顧問先数について教えてください。

安達君年さん(以下、安達):開業当初の顧問先数はゼロ、売上もゼロ。その後、記帳代行の仕事が入り始め、200万円、400万円、800万円と倍々ペースで売上が伸びていきました。地域に密着した事務所にしたかったので、自動車で30分以上かかるところには行かない、という方針でやってきて、今でも越谷市松伏町を中心に活動しています。

――開業当時はどんな仕事をしていたのですか?

安達:"古紙回収業者"のように顧問先を回って領収書や請求書、出納帳などを集めていました。ほぼ100%が記帳業務で、当時は自計化についてはまったく考えていなかったです。

――顧問先に自計化してもらうようになったのはいつからですか?

安達:開業して10年ほど経った頃、「領収書や請求書を集めて帳面を作ることが税理士の仕事なの?」と、妻にあきれ顔で指摘されたことがありました。当時、私の頭の中では記帳業務が主流で、帳簿をつけたり間違いを正したりするのがごく当たり前の業務だと思っていたのですが、一方では一生懸命勉強して税理士になったのに「本当にこのままでいいのかな」とも感じていました。記帳の仕事で日々追われるしかないことに歯がゆい気持ちがあったのは事実です

他方で、帳簿をつけるのは税務署への申告のためではなく、お客様自身のためです。帳簿は会社の過去を知り、未来を変えていくうえで必要なものですから、本来はお客様ご自身でつけるほうがいいのです。

自計化というのは、税理士が楽をするためではなく、お客様が自分たちのビジネスについて理解を深めるためにしていただくものです。最初は大変かもしれませんが、どんなに時間がかかっても教えますから一緒にやっていきましょう、と私は提案しています。実際に7、8年くらいかけて指導していくこともあります。

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自計化にパソコンスキルや簿記の知識は必要なし

――自計化して良かった点を教えてください。

安達:税理士事務所のスタッフに時間をかけて指導するよりも、顧問先に時間をかけるほうがよいと思います。スタッフは自己都合で退職しますが、顧問先は継続しますので。また税理士任せにしていると、領収書でも請求書でも顧問先は「先生が認めてくれたものを記帳している」という意識が働き、業務遂行上必要なもの以外も経費として計上してしまうことがあります。

ところが自計化を進めると「収入や費用は漏らしてはいけない」「その内容も確かなものでなければいけない」「自分で説明できなくてはいけない」という意識が強くなり、記帳に向き合う姿勢が変わってきます。事務所では時間を捻出した分、請求書や領収書のチェックができ、結果として税務調査もかなり安心できます。

――逆に自計化して悪かった点があれば教えてください。

安達:基本的にはありません。強いて挙げるなら、うちのスタッフが当初は反対したことでしょうか。自計化を進める前は、帳面をつけて試算表を作るという部分で主導権を握っていました。しかしIT化が進み、お客様の入力が終わった時点でほぼ試算表が出来上がるようになると、スタッフが嫌がり出したのです。

以前は顧問先から「よろしくお願いします」と頼まれて記帳をしていたのですが、同じ業務をお客様ができてしまうようになると、それ以外の価値を提供しなければというプレッシャーを感じたのかもしれません。最終的には「顧問先の将来のためになるように」と説得して理解してもらえましたが。

――自計化を進めるうえでポイントになることがあれば教えてください。

安達:原則として諸口勘定は使わせないで相手科目がわかるようにすること、それは単一仕訳で教えることだと思います。お客様が把握できない仕訳が発生し、結果として税理士に任せてしまうことが多いので、手間がかかっても単一仕訳で教えて常に相手科目がわかるようにすることが大切です。そして貸借対照表の各勘定科目の残高を確認・把握していただきます。そのうえで試算表を表示してから各元帳へ移行するよう指導しています。

――ITリテラシーが高くない顧問先もあると思います。

安達:何もわからないお客様のほうが、むしろやりやすいです。過去には日本語さえおぼつかないバングラデシュの方に教えたことがあります。パソコンやITなんてわからなくてもいいんです。電源の入れ方とキー操作を覚えていただければそれで大丈夫です。

仕訳についても同様です。「現金預金は入金があったら左、出金があったら右に書きます」と説明すれば、たいていの方はわかっていただけます。ただ、わからないことがあった場合に、根気強く、あきらめずに教えていくのは税理士事務所の責任です。

――データ入力はどのような方法で行っていますか?

安達:多いところでは年間2万仕訳以上あるのですが、顧問先がほしい情報を摘要欄へ打ち込むのでうちでは手入力していただいています。レシートを自動で読み込むツールなども出始めていますので、そのうちツールを活用する方向にシフトしていくかもしれません。

――顧問契約を結ぶ段階で「自計化してもらいます」という話をするのですか?

安達:はい、うちでは入力はしませんということを最初にお伝えします。そもそもうちの場合、お客様を紹介していただくことが多いのですが、例えば銀行が仲介してくれる場合、「税務署に見せるためではなく、自分で経営判断をする材料としての帳簿のつけ方を指導してくれる先生です」という形で紹介を受けることが多いです。

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自計化の推進により繁忙期の深夜残業がゼロに

――税理士事務所は繁忙期に多忙を極めると聞きます。

安達:うちは2月、3月でも土日祝日は休みです。自計化を進める前は夜中の1時くらいまで働くことが常態化していましたが、今は繁忙期でも残業は夜8時までと決めています。

――顧問先の帳簿をチェックする頻度はどのくらいですか?

2、3ヶ月に一度、あるいは半年に一度くらいが多いと思います。もちろんはじめはもっと頻度は高かったのですが。原価管理などをやっているお客様は、先ほども申し上げたとおり7、8年くらい指導に時間がかかることも珍しくありません。

指導におけるポイントは「入力中に迷ったり、元帳を見ていてわからなくなったりしたらすぐに連絡をください」とお客様に伝えておき、その場で悩みを解決することだと思います。そのように丁寧に指導していると徐々に質問が減ってくるので、お客様の成長を感じられます。

――自計化している顧問先からはどんな声が聞かれますか?

安達:先日もブロック工事の会社に仕訳を教えている時、「自分で数字を入力するようになったら、自社のことがよくわかるようになりました」とか「所得についてはここを見るんですね」など、新たな気づきがあったと非常に喜んでいただきました。

何があっても教えることをあきらめない

――顧問先の自計化を推進したいと思っている税理士さんにメッセージをお願いします。

安達:何があってもお客様に教えることをあきらめてはいけません。経営者がご自身で経営を見つめ直すための指針を作りたい、といったことが心の底から言えるようになってはじめて、自計化を勧める資格があるのかなと思います。そうした持論を本気で自身の言葉で語れないのなら、自計化はあきらめたほうがいいと思います。

「今までは先生のところで記帳してくれていたのに、もうやってくれないの?」とか「顧問料は同じなのに全部うちでやるの?」とか「先生が楽になるためにやるんじゃないの?」とか、あるいはもっとひどいことを言われてくじけそうになることもあるでしょう。

それでも「将来、必ず良いことがあります」と相手を目覚めさせるだけの熱意がなくてはなりません。例えば銀行から融資を受けたいとなった時に、会社のことを自分で説明できずに「税理士に聞いてください」なんて言ったら銀行は相手にしてくれません。自分の会社のことを語れない経営者に銀行はお金を出さないからです。特に経営者に対しては「そばについて教えてあげますから、同じ土俵に立って未来のことを一緒に話しませんか?」と言えるような関係になりたいですね。

*     *     *

手間のかかる記帳業務をやめる税理士事務所は少なくありませんが、顧問先に投げっぱなしという無責任な自計化が散見されるのも事実です。自計化させているので中身には責任を持ちません、という姿勢では顧問先から信頼を得られるはずはありません。安達さんのように7、8年という時間をかけ、「責任ある自計化」で顧問先を支えるのも「いい税理士」の一つの姿と言えます。

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