RPAは税理士事務所に何をもたらすのか 単純作業を解消するテクノロジーの今
ヴェールコンサルティング株式会社
代表取締役 大西亜希さん
RPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務の自動化)の普及により、税理士事務所の業務は代替されると言われて久しいですが、「うちみたいに小さな事務所には関係ない」と思っている方もおられるのではないでしょうか?
この記事では『RPAで成功する会社、失敗する会社』の著者、ヴェールコンサルティング株式会社の大西亜希さん(代表取締役)へのインタビューを通して、小規模な税理士事務所がRPAについて知っておくべき理由、RPAに今できることや今後の展望などを紹介します。
お話をうかがった方:ヴェールコンサルティング株式会社 代表取締役 大西亜希さん
みずほ情報総研株式会社、アビームコンサルティング株式会社を経て、現職。これまでに大企業から中堅・中小企業まで、100社以上のITコンサルティング・業務改革コンサルティングに従事。デジタル庁 ITストラテジスト、一般社団法人IT顧問化協会 理事なども務める。中小企業診断士、高度情報処理技術者。
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小さな事務所にも求められるRPAの知識
Q.RPAとは何でしょうか?いわゆるIT化やDXと何が違うのでしょうか?
大西さん(以下、大西):業務をデジタルに置き換えることをIT化、その中でも業務の抜本的な改革を伴うものをDXと呼びます。一方、RPAはパソコンで行っている作業を記録して自動化する技術を指します。
RPAの守備範囲は広く、例えばお客様に対する情報発信やWebサイト上の情報取集といったマーケティング的な使い方もあれば、基幹システムから売上データを週次で集計して会議用にレポートを作る、といった管理業務的な使い方もあります。
Q.従業員が10人に満たないような小規模な事務所でも、RPAについて知っておいたほうがよいでしょうか?
大西:DXを進めるには、巷にどういう技術があるのかアンテナを張っておく必要があります。その意味でも、PRAについて知識を持っておくほうがよいと思います。実際にPRAを使うかどうかは別の問題です。
RPAには無料のツールもあります。ただ無料のツールにはサポートがなかったりするので、ITリテラシーの高い人にしか使いこなせません。皆さんがよく使っているシェアの高いツールは、だいたい月額10万円くらいかかります。
小規模な事務所にとっては大きな負担になると思います。ただその10万円が高いと見るか安いと見るかは比較対象によって変わってきます。
RPA自体はホワイトカラーのパソコン業務を代替するものです。私の知っている従業員3人の司法書士事務所は、月額10万円のPRAツールを導入しています。パート従業員を一人雇うよりもロボットを使うほうがよいと判断したのです。
パート従業員は辞める可能性もあるし、モチベーションが下がることもあるし、土日や夜間は働けません。それよりも特定の業務をロボットに覚えさせ、繰り返しやらせることができれば人を雇うよりもパフォーマンスが出せる、と判断できればRPAは有益だと言えるでしょう。
OCRとの連携によりペーパーレス化を実現
Q.現状、RPAツールは具体的にどんな作業ならできるのでしょうか?
大西:今、主流になっているのはAI(人工知能)エンジンを搭載していないRPAツールです。そのRPAツールが得意なのは転記作業です。例えば顧問先からもらったExcelのデータを会計ソフトに入れる時、A列のデータはX欄に、B列のデータはY欄に入力するといったルールが決まっているとRPAツールは真価を発揮します。
あるいは、CというWebサイトからファイルをダウンロードしてZフォルダ内に格納する、といったルールなどにも対応できます。税理士事務所の記帳代行において、顧問先からいつも同じようなフォーマットをもらっていてそれを転記する作業があれば、RPAツールはとても有効だと思います。
ただ、紙のレシートをデータとして会計ソフトに入力する場合は、OCR(Optical Character Reader:画像データのテキスト部分を認識して文字データに変換する技術)とセットにする必要があります。例えば、経費精算のクラウドサービスとしてシェアが高い「楽楽清算」に組み込まれているOCRでは、タクシーのレシートを写真に撮ると、イメージデータから数値を読み取って高い精度でテキスト化できます。
ちなみに現在、OCRではAIエンジンを搭載したAI-OCRが主流になりつつあります。「楽楽精算」で活用されているOCRも、AI-OCRです。
OCRを使うと写真を撮るという手間が必要ですが、後は特定のフォルダに格納するように設定するだけで仕訳の半自動化はできると思います。
なお今後、AIエンジンを搭載したRPAツールが増えてくると、例えば今、人力で行っているメールの対応処理などもロボットが代替できるようになります。
RPAの推進に不可欠な三つの視点
Q.ご著書の中で、RPAを進めるに当たり三つの視点、すなわち①費用対効果、②業務選定、③運用体制が重要だと指摘されています。
大西:①の費用対効果についてですが、月額10万円というのは安い投資ではありません。先ほど申し上げたとおり、何と比べて高いのか安いのかという判断軸を持つことが大切です。
②の業務選定については費用対効果とも絡むのですが、どんな業務がRPAに適しているのか理解できないと当然、使いこなせません。代替できる業務を見極めることが大切なのはそのためです。
③の運用体制については少し踏み込んで説明します。
冒頭の質問に「IT化と何が違うのか」とありましたが、従来のIT化はシステム開発会社が作ってくれたものを使うというイメージを持たれる人が多いと思います。そこにはシステムの専門家がサポートしてくれるという前提があるのです。
RPAでは「A列のデータをX欄にコピーする」「すべてコピーし終えたら次の行に移る」といったシナリオ(操作の手順)の一つ一つを設定しなければならず、これまでのIT化と比較すると、業務の粒度が細かいのです。
この設定をシステム開発会社に委託する方法もありますが、費用対効果が合わないことが多いため、プロダクト開発元のサポートを受けながら、自社で設定を行うことが最適となります。
これまでのIT化とはシステムの運用主体が異なるため、この違いを正しく理解する必要があり、③運用体制を挙げています。
Q.税理士事務所の場合、経営者や代表税理士はRPAの効果についてどのくらい知っておく必要がありますか?
大西:導入するか否かの意思決定ができるレベルの知識は必要です。つまり、先ほど挙げた三つの視点については知っておくべきでしょう。
またコストに見合った効果を出していくには、先ほど述べたとおり、ある程度は内製化していく必要があります。
内製化する際、シナリオの作成やメンテナンスを所内の誰かがやることになるのですが、専任の担当者を置くことは稀で、既存の他の業務と併任させるケースが多いと思います。しかし新しく導入したツールに対しては情報をキャッチアップする時間も必要なので、業務調整が入らないと大抵は頓挫してしまいます。
私の知っているケースでも、既存の業務をこなしつつ土日を使ってシナリオを一生懸命作っていた人がいますが、やはり継続しませんでした。その意味でも、経営者や代表税理士によるサポートは必要だと思います。
税理士事務所の経営者に必要な心構え
Q.将来的にRPAの導入を考えている税理士事務所の経営者にはどんな心構えが必要でしょうか?
大西:現状、RPAが得意とするのは単純作業です。つまり「本当にそれは人がすべき仕事なのか」ということをRPAは私たちに問いかけてきているのだと思います。単純作業はロボットに任せて、人は人にしかできない付加価値の高い仕事をやっていく環境がもう整ってきているのです。
人はどういう仕事をしていくべきなのか、どういうサービスを顧問先に提供すべきなのか。そうしたことを真剣に考える時期に差し掛かっています。生産性の低い煩雑な作業はRPAで自動化し、事務所の価値を高めていくという心構えが求められると思います。
Q.最後に、読者に対してメッセージをお願いします。
税理士さんは今、その存在価値が問われています。デジタルの波に押し流されてしまうのではなく、ぜひ一度ご自身の強みを確認してさらに伸ばし、それぞれの個性でサービスを尖らせて行くべきだと思います。誰がやっても同じ仕事はロボットに任せ、ご自身にしかできないことを探求していっていただければと思います。
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AIと並び、税理士事務所の業務を奪うものとして警戒感を持たれることもあるRPA。これを使いこなせるようになれば、税理士事務所のスタッフは単純作業から解放され、より付加価値の高い仕事に時間を振り向けることができます。
情報収集のフェーズは過ぎ、やるか否かの決断の時がすでに来ています。税理士事務所の業務をサポートする力強い味方として、RPAの導入に取り組んでみてはいかがでしょうか?
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