メンターとして経営者を支える!税理士に必要なコミュニケーションの「技術」と「姿勢」とは?
相手を説得する話し方、相手の真意を探る話し方、相手の悩みや愚痴を吐き出してもらう話し方――。コミュニケーションにはいくつものテクニックがあります。ではそうしたテクニックを身につければ税理士として顧問先と良好な関係を築けるのでしょうか?テクニックは確かに重要ですが、顧問先の業績向上に貢献する「いい税理士」になるにはそれだけでは不十分。テクニックを習得するのと同時に、顧問先に向き合う「姿勢」も問われてきます。
本記事ではまずテクニックの一例として「コンテキストを意識する」ことについて説明します。そのうえで、「いい税理士」が目指すべきメンターとして活躍するための姿勢について述べていきます。
それらを通して、顧問先との関係強化を図るためのコミュニケーションのあり方について考察します。
税理士が目指すべきメンターとは
AI(人工知能)やRPA(業務の自動化)の普及により税務申告や記帳代行といった業務が代替されるという話は、税理士のみなさんは耳にタコができるくらい聞いていらっしゃると思います。実際、そのとおりになることは避けては通れない事実です。だからこそ、顧問先に対して付加価値の高いサービスを提供する必要があるのです。具体的には、数字に裏打ちされた根拠を示しながら、中小企業の財務や経営を支えるプロフェッショナルになる――。ここを目指すこと以外に税理士が生き残る道はないと言ってよいでしょう。
とは言え、税理士は経営コンサルタントではありません。そうなる必要もないとランカーは考えます。
スポット的に会社の経営に参画し、短期間での成果を期待される経営コンサルタントとは異なり、税理士は顧問先の経営者と長きにわたり関係を深めていきます。そんな税理士だからこそ、経営者にとってのメンター、すなわち人生における相談相手としての役割が求められるのです。
税理士が目指すべきメンターとは、次の特徴を持つ人を指します。
- 経営者が答えにたどり着く手助けをする
- 経営者と長期的な信頼関係を築く
- 会社のことだけでなく経営者の人生をサポートする
そんなメンターにとって重要なものの一つがコミュニケーションであることは言うまでもありません。経営課題や仕事上の悩み、愚痴、プライベートの問題などを経営者から吐露してもらう力が求められるからです。また時には自分の考えを曲げようとしない経営者を説得したり、経営者にとって耳の痛い話を飲み込んでもらったりする必要があるかもしれません。そういう場面で役立つのが、コンテキストを意識するということです。
>>「いい税理士」は経営コンサルタントにあらず!目指すべき役割とは
すべての会話はコンテキストから始まる
ビジネスを通して行われるすべての会話には、必ずコンテキストがあります。コンテキストとは、その会話に至るまでの背景や文脈。すなわち「なぜ自分がここにいるのか」、「なぜ今この話をしているのか」ということを常に意識するのです。
自分をアピールする話し方、相手の真意を探る話し方など、コミュニケーションにはさまざまなスタイルがありますが、コンテキストによってそのスタイルは決まってきます。例えば「面接を受ける」というコンテキストがあるのなら少し声を張るくらいでハキハキと話すというスタイルになりますし、「クライアントの悩みを聞き出す」というコンテキストがあるのなら慎重に話を聞く体勢になるでしょう。
会話をしている最中は話の内容、すなわちコンテンツを考えることで精いっぱいになりがちですが、話が袋小路に入ったり、自分が何を話しているのかわからなくなったりしたらコンテキストに立ち返るのです。すると何を言うべきなのかが自然と見えてきます。
相手が怒っているのか、喜んでいるのか、落ち込んでいるのか、こちらの話から何かを得ようとしているのか、こちらの欠点を指摘しようとしているのか。これらを意識することで、相手に「刺さる」言葉を放つきっかけが広がります。逆に、この人になら話してみようかなと相手に思わせる「引き出す」言葉を投げかけることにもつながります。
コミュニケーションツールを工夫する
具体例を挙げます。
みなさんは年に一度、顧問先の経営者に対して決算報告をしていると思います。その際、決算報告書をそのまま見せますか?あるいは、枝葉を省いてわかりやすく要約したリポートを見せて説明しますか?こうした経営者に向き合う際の姿勢はとても大切です。
例えば志田俊介税理士事務所 代表税理士の志田俊介さんは、A4用紙10ページ程度にまとめた決算報告リポートを作成し、経営者とのコミュニケーションツールとして使うそうです。このリポートは、①貸借対照表、②損益計算書、③キャッシュフロー計算書で構成されます。
「決算報告の目的は、経営に関する数字について経営者に理解してもらうと同時に、経営者自身が第三者に対して決算の内容を説明できるようになってもらうことです」と志田さんは話します。志田さんの言う目的こそが、決算報告におけるコンテキストなのです。
このコンテキストにより、次のことが決まります。
- わかりやすくするために余計な情報は省略する
- 一度の説明では経営者が理解しきれないこと、わかったつもりになることがあるので、あとで一人になったときに振り返りができるようにする
少なくとも税務申告システムなどで打ち出しただけの決算報告書を印刷して見せるのではなく、コンテキストを意識して内容や構成を考える必要があります。
問われているのは顧問先に向き合う誠実さ
コンテキストを意識することはコミュニケーションのテクニックの一つです。コミュニケーションにはいくつものテクニックがあり、書店に行けば役に立つ書籍がたくさん並んでいます。
しかしどんなに多くのテクニックを身につけたとしても、知らないことには答えられません。税理士は税務や会計の専門家ですから、当然、専門家としての技量が必要です。確かな技量を持ち、顧問先の置かれている状況を深く理解しようと努めること。これこそがコミュニケーションのベースであり、税理士にとって最も大切な誠実さなのです。
果たして自分は顧問先に対して誠実か?顧問先の経営者の顔を一人ひとり思い浮かべ、自分にそう問いかけてみてください。胸を張ってイエスと答えられた方は、「いい税理士」への道をすでに歩き始めています。イエスと答える自信のなかった方は、繁忙期を終えた今だからこそ、顧問先との関係を再構築するためのアクションを起こすべきかもしれません。
たくさんのコミュニケーションスキルを身につけて“武装”することも大切ですが、メンターにとって最終的に問われるのは姿勢そのものです。
中小企業の経営者の中には税理士との面談を儀式としか思っておらず、税理士に対して多くを望まない人がいます。一方で経営参謀や社外CFO、ひいてはここまで繰り返し述べてきたメンターとしての役割を期待している経営者が少なくないのも事実です。
後者にとってのかけがえのない存在として、ぜひみなさまには「いい税理士」を目指していただきたいと思います。
この記事をシェアする