資金ショートを防ぐ!「数字」で経営者に気づきを与えた税理士の一手
税理士が中小企業の業績向上に貢献するために、どのような支援をしていくべきなのか。今回は2019年8月にMikatus(ミカタス)が開催した「『いい税理士』座談会 in 大阪」にご参加いただいた、F&Link税理士法人の横山智晃さんのお話をご紹介します。
>>「いい税理士座談会 in 大阪」の内容についてはこちらをお読みください。
このままいくと近いうちに資金がショートしてしまう。しかし、その現実に経営者自身は気づいていない。そのようなときに、いかにして危機感を持ってもらい、経営改善に取り組んでもらうのか。横山さんが数字を用いて経営者に気づきを与え、資金ショートを回避しただけでなく、3期連続で増収増益を達成した事例をお届けします。
▼支援により達成した成果
・3期連続で増収増益
・借入金返済額 年間552万円の圧縮(キャッシュフローの改善)
伝えるべきことは、経営者の「準備」が整ってから
Q.どのようなきっかけで経営者と出会ったのでしょうか
大阪の下町にある、従業員40名ほどの製造加工業の会社さんです。出会いのきっかけは、知人からの紹介でした。すでに別の税理士さんが顧問をされていたのですが、相談があるとのことでご紹介いただきました。
最初の面談でお会いした時に、決算書を見せていただきましたが、一目見て「まずいな」と感じました。利益は出ていたのですが、借入金の負担が多くキャッシュ(現金)が減り続けていたのです。このままの状態が続くと、近いうちに資金がショートしてしまう経営状況でした。
「このままいくと、会社はどんな感じになりそうですか?」と聞くと、経営者からは「利益も出ているし、まぁ大丈夫なんじゃない?」という回答。「お金は貯まっていますか?」と聞くと、「いやぁ、なんかあまり貯まっていないんだよねー」といった具合で、危機感は全くありませんでした。
本来であれば、「すぐにでも経営状況を改善しないとまずいですよ!」と言いたくなるところです。しかし、ただそれを伝えるだけでは、経営者には分かってもらえないだろうと思いました。
▼顧問先の概要
業種 | 製造加工業 |
---|---|
所在地 | 大阪府 |
売上規模(年商) | 1億円以上 3億円未満 |
役員・従業員数 | 約40人 |
業歴 | 約65年 |
代表者の年齢 | 40代 |
Q.経営者に分かってもらえないのは、どうしてでしょうか
その経営者さんとは初めてお会いした状況で、しかも私の方が年下でした。まだ信頼関係も構築できておらず、経営者からすれば「横山って誰や?」という感じでしょう。そのような状況で「このままいくと資金がショートします!」といきなり伝えたところで、経営者には刺さりません。危機感もなく、火がついていない経営者からすると、「何もわかっていない若造が偉そうに」となってしまいます。
自分で事業を切り盛りしている経営者は、他人からあれこれ言われるのが好きではない方が多いです。そのため、お会いしている時間の9割は聞き役に徹し、残りの1割で的を得たことが言えるかどうかが重要だと考えています。その1割についても、先方が受け取る態勢が整ってから、ボールを投げないといけません。ですので、いかに経営者にこちらの言葉を受け取る態勢を作ってもらえるかが重要になります。
数字という「事実」を通して経営者に危機感を持たせる
Q.ではどのようにして、経営者に危機感を持たせたのでしょうか
関係性が出来ていない状況ですので、言葉で伝えるのではなく、客観的な事実を見てもらいました。2回目の面談時に、将来の資金シミュレーションをした結果をグラフにしてお見せしました。現在の状況が続き、仮に融資を受けることができなければ、という仮定でシミュレーションをしたところ、数年で資金がショートしてしまう結果になったのです。
そのグラフを見て初めて、「これ、ヤバくない?」と経営者が危機感を抱いたのです。さらに、「どのように改善していけばいいのですか?」と経営者が前のめりになったところから、その経営者とのお付き合いが始まりました。
もちろん、顧問をされている税理士さんにもご挨拶に伺いました。税務領域はその方が担当し、財務面や経営面の支援を私がさせていただく形で快く承諾をいただきました。
Q.具体的な支援としては、まず何から始めたのでしょうか
目下の課題は、目先のキャッシュをどのように確保するか。そのために取り組んだのは財務戦略の立案、特に月々の借入返済額の負担を減らすことでした。
まずは、毎月の借入返済が重荷となっていることを説明し、借入の組み方についてアドバイスをしました。さらに、今後の事業戦略について擦り合わせをしたうえで、返済負担を減らすための銀行交渉についても議論しました。
具体的には、既存の取引銀行以外からの借り換えを検討したのです。各行へ相談する際は、相見積もりをとっているからと、一発勝負で条件の提案をしてほしい旨をお伝えしておきます。
最後に、各行から提案いただいた中で最も条件が良いものを、既存の取引銀行に持っていき検討をお願いします。すると、既存の取引行はものすごく考えてくれて、非常に良い提案をしてくれるのです。
このときは最終的に既存の取引銀行が最も良い提案を出してくれて、結果的に年間返済額を552万円ほど圧縮することができました。今では、キャッシュを手元に残しながら安心して事業を継続していける状態になりました。
課題が経営者に腹落ちすれば、改善の推進力は増す
Q.組織風土を改善し、生産性も向上させたとのことですが?
製造加工業では品質や納期が重要ですが、それらはヒト(従業員)に依存します。社員同士の関係性や雰囲気、モチベーションといった組織風土が売上に影響します。
現場従業員の中には、納期に間に合わせる意識が低い方もいます。製造過程でボトルネックになっている部分を見直し、納期を早め、品質を高める努力を一緒にやっていきましょう、という提案を経営者にしました。
Q.組織風土の改善は一筋縄ではいかないのでは?
「このままでは会社がヤバイ!」と、すでに経営者には火がついています。そのため、改善に向けた取り組みを積極的にバリバリと進めてもらえました。
経営課題をいかに経営者の腹に落とすことができるのか。それが極めて重要だと改めて気づかされました。
経営者が率先して改善に取り組んでくれたおかげで、従業員にも品質管理のための意識や活動が浸透しました。納期の短縮や加工時のロスを減らせたこと等もあり、税前利益でも1,000万円ほどの増加。3期連続で増収増益を達成する大きな要因となりました。
Q.成果を挙げることができたポイントは何でしょうか
わずか数年で資金がショートする恐れがあることを、数字で見せることができた点だと思います。
私が関わる以前は、利益は出ているにもかかわらずキャッシュが減っている理由に、経営者自身が気づいていませんでした。損益とキャッシュの関係性が良く分かっていらっしゃらなかったのです。その部分を理解してもらうために、決算書の読み方などを伝えるだけでなく、経理体制を整備して経営者自身に仕訳入力もしてもらいました。
経営支援に携わってから2年程が経ったころには、「横山さん、今度の借入の話なんだけど、こうしようと思う」と経営者の方から持ちかけていただけるまでになりました。しかし、損益とキャッシュの違いについては、未だ分かったような、分からないような、という状況です。
つまり、普段から数字に慣れてる税理士や会計事務所がどんなに「伝えている」と思っても、実はそれほど伝わっていないものだなと。そのギャップに改めて気づかされました。
経営者が決算書の読み方を理解して、損益とキャッシュの関係性を掴めるようになるまでには、人によっては数年を要します。その点、目に見える形で数字を客観的に示すことで、一目で腹落ちさせられる手法は非常に効果が高かったと思います。
下町の中小企業の中には、数字があまり得意でない経営者の方も多くいらっしゃいます。そういった方々を、この手法を使ってもっとたくさん支援していきたいですね。
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