税理士事務所のスタッフを「研修講師」へ 白潟流の研修事業の立ち上げ支援に迫る
白潟総合研究所株式会社 代表取締役社長 白潟敏朗さん
中小企業向けのコンサルティング・研修を強みとする白潟総合研究所株式会社。多分野のコンサルティング経験を持つ同社は2022年1月より、新たな試みを始めました。
税理士事務所のスタッフをロジカルシンキングやタイムマネジメントなど、15分野の研修講師として育成し、税理士事務所が顧問先に対して研修事業を提供するサポートを始めたのです。
数多くの実績を持つ同社がなぜ今、税理士事務所に着目したのでしょうか。同社の代表取締役社長を務める白潟(しらがた)敏朗さんに話を聞きました。
お話を伺った方:白潟総合研究所株式会社 代表取締役社長 白潟敏朗さん
1990年にデロイトトーマツグループに入社。1998年からISOコンサルティング会社・審査会社を立ち上げ。2006年にトーマツ・イノベーション設立、代表取締役社長に就任し7,800社のお客様に定額制研修イノベーションクラブで人材育成にイノベーションを起こした。2014年10月に独立し白潟総合研究所を設立。子会社4社含め5社の経営をしている。著書は累計45冊、95万部を突破している。
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勝ち残るのは透明性が高い税理士事務所
Q.貴社のビジネス上の強みを教えてください。
白潟社長(以下、白潟):弊社は中小ベンチャー企業のみを対象とするコンサルティングファームです。経営支援や組織支援など色々な業務がある中で、特に①採用、②育成、③評価といった組織開発のコンサルティングに圧倒的な強みを持つと自負しています。採用した人に育ってもらい、その働きぶりを評価するという一連の流れをワンストップで支援できる点が弊社の強みです。
Q.貴社のミッションやビジョンを教えてください。
白潟:ミッションは「中小ベンチャー企業の社長を元気にするために存在する」。ビジョンは10年後と30年後の二つがあります。10年後のビジョンは「日本の中小企業コンサルティング業界でトップファームになる」、30年後のビジョンは「世界のトップファームになる」。これらの実現に向けて日々の仕事にまい進しています。
Q.貴社の採用ページに「こういう人はうちに合わない」ということがはっきり書いてあります。なぜでしょうか?
白潟:我々が採用のコンサルティングをする時にお客様にも伝えるのですが、いちばん良くないのが応募者に対して会社の課題を隠すことです。面接で良い話だけをして、実際に入社したら課題が見つかり、「これは説明会や面接で聞いていなかったから辞めよう」となるのが最悪のパターンです。
昨今は企業にも透明性が求められる時代です。自社の魅力だけでなく、求職者には課題も共有する必要があると思います。企業と求職者の間のミスマッチを防ぎたいのなら、マイナスの面にも言及する姿勢が大切です。
32年のコンサルティング経験の結論
Q.経営コンサルタントとして実績も豊富な貴社がなぜ今、税理士業界に着目したのでしょうか?
白潟:私自身、デロイトトーマツ傘下のコンサルティング会社の社長を15年やってきまして、8年前に独立して今に至っています。コンサルタントとして32年の経験があるのですが、中小ベンチャー企業に対する研修は、私どもではなく税理士事務所が支援したほうが上手く行くという確信を持っています。
Q.どうしてそう思ったのですか?
白潟:研修業界のマーケットサイズは3,500億円くらいだと言われています。ところが、大きな市場であるにも関わらず、研修専業の大企業がほとんどありません。つまり中小の研修会社がパイを奪い合っているのです。
どういう会社が市場を奪っているかというと、身近にいるコンサルティングファームや研修会社、もしくは個人事業主として講師をやっている人です。これまではほとんどの場合、この三者が仕事を受注してきました。
しかし「身近にいる」ことが重要な条件になるので、我々のようにスポットとして仕事をするコンサルティングファームよりも、いつでも訪問できる税理士事務所が研修業務をしたほうが、顧問先のニーズにマッチすると考えたのです。
事務所スタッフを講師に変える3ステップ
Q.貴社は税理士事務所にどんなサービスの提供を始めたのでしょうか?
白潟:税理士事務所には顧問先へビジネス系の研修をするためのテキストの提供と講師育成・営業支援をしています。税法が変わる時の研修はどこの事務所でもやっていますが、弊社が提供するのはロジカルシンキングやタイムマネジメント、コーチングといったビジネススキル・マネジメントスキルに関するものです。これらを受けることで、事務所のスタッフにさまざまなテーマの人材育成・管理職育成をする講師になっていただくのです。
Q.成功事例があれば教えてください。
白潟:大阪府にActvision(アクトビジョン)様という税理士法人があります。弊社のカリキュラムに沿って学んでいただいた結果、受講したスタッフが講師となって顧問先の人材育成・管理職育成を支援した事例があります。
段取りとしてはこうなります。
まず1,500ページに及ぶ研修コンテンツを提供し、それをもとに事務所の代表者に顧問先への営業活動を始めてもらいます。その際、事務所の代表者には営業サポートのトレーニングも受けていただきます。
受注が確定したら、受注したテーマの講師を担当するスタッフのサポートに移ります。例えば次のようなサポートを実施します。
- ステップ1:弊社の講師による3時間ほどの研修を受講する
- ステップ2:弊社の講師と共に、講師を担当するスタッフと研修コンテンツを読み合わせる
- ステップ3:弊社の講師を受講生と見立て、講師を担当するスタッフが模擬研修をする
このステップ1、2、3の中で「話し方に問題はないか」「研修の内容は適切か」などを確認し、合格となったら晴れて講師としてデビューします。合格しなかった人は弊社側の指摘を参考にしながら2度目、3度目と練習を重ねていきます。
学びの実践と安定の報酬を目指して
Q.このカリキュラムを受ければ、誰でも講師になれるのでしょうか?
白潟:なれます。講師やコンサルタントになるために必要なのは、やる気だけです。Actvision様でもそうでしたが、このカリキュラムは時間のかかる人でも3回目以内にクリアすることがほとんどです。
なお今回、私どもは税理事務所に対して二つのサービス提供を提案しました。一つ目は「半日研修」というスポット型の研修サービスです。もう一つは「人材育成顧問」という長期的に人材育成を支援するサービスです。
前述したとおり、半日研修はステップ1、2、3から学び、顧問先に対して文字どおり半日間の研修を行うものです。
もう一つの人材育成顧問は、半日研修を終えた翌月と翌々月に、税理士事務所の講師が顧問先を再訪し、研修受講者をフォローアップするものです。顧問先に対して研修を受けるだけで学びを実践するのは難しい面があります。1月に研修を実施したのなら、2月と3月に一回ずつフォローアップを行い、顧問先の社員と管理職に成長してもらいます。
こうすると、例えば1月、4月、7月、10月に顧問先に向けた半日研修を行い、その他の月はフォローアップという形で年間を通してカリキュラムを組んでいくことが可能になります。顧問先に求めるサービス料の目安としては、人材育成顧問が1社につき月額8万円となります。
研修スキルの早期獲得や売上拡大といった観点から、最終的に税理士事務所にはこちらの人材育成顧問の契約を顧問先と結んでいただきたいと思っています。
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経営コンサルタントとして32年の経験を持ち、今年58歳を迎える白潟さん。自社やグループ会社の事業承継をスムーズに行うため、まさに今、準備を進めているそうです。事業承継については「必ずしも会社を売ることが最適な選択肢ではないケースもあります」と白潟さんは話します。
特にPMI(Post Merger Integration:M&Aで得た事業の承継や、成長に向けた統合などの取り組み)が浸透していない中小企業では、買収される側の幹部や社員が辞めるなど、後になって問題が明らかになることが少なくありません。
そうしたことを防ぐために、次世代を担う幹部社員を経営者として育てることを目標として、さまざまな業界の幹部育成に取り組んでいるのです。今回、税理士業界向けのサービスを始めたのは、税理士事務所の新規事業立上を支援することで顧問先の人材育成・幹部育成を実現して頂きたいという想いからです。
その想いに加え、将来的には顧問先の事業承継を適切な形に導いていきたいという想いもあると白潟さんは語ります。税理士事務所、その顧問先、そして白潟総研がWin-Win-Winの形で次世代に向かっていく――。白潟さんはそんな未来を想い描いているのです。
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