顧問先と共に汗を流し、喜びを共有する 従来の税理士業を超える付加価値の提供
アカウンティングフォース税理士法人 代表社員 加瀬洋さん
子供の頃に思い描いた夢を実現する人。将来の夢に何度も変更を加えながら、現実的な目標に到達する人。どちらも尊い人生です。
小学生の頃に税理士の家を訪問し、「税理士になれば豊かな暮らしが待っている」という淡い憧れを抱いた加瀬洋さん(アカウンティングフォース税理士法人 代表社員 公認会計士/税理士)は、子供時代の想いを実現した一人です。
顧問先の従業員に代わって率先してチラシ配りをしたこともある加瀬さんは、記帳代行・税務申告をするという従来の税理士業務の枠を超え、本当の意味でお客様が期待するサービスの提供を目指しています。
そんな加瀬さんがどのようなこだわりを持って税理士業務に邁進しているのか、話を聞きました。
少年時代の淡い期待「税理士になれば裕福に暮らせる」
Q.税理士を志した動機を教えてください。
加瀬さん(以下、加瀬):もともとうちの親族には会計士や税理士が多かったのですが、親族の家に遊びに行くと、いい暮らしをしていることが子供ながらにわかるんです。「税理士に慣れば、豊かな暮らしを送れる!」と思ったのが、税理士という職業に関する私の原体験です。
Q.実際になってみていかがですか?
加瀬:税理士は一義的には会計や税務に携わる仕事ですが、それに囚われずにさまざまなことができるのが魅力の一つです。特に会社の根幹である会計や財務を軸として、お客様と一緒に将来を作っていけることにやりがいを感じます。
あの人たちはただの税理士じゃない
Q.仕事の成功体験をお聞かせください。
加瀬:ある時期、私はスポーツ団体の税務顧問をした経験があります。団体名は仮にAとします。当時から、その競技の市場規模は右肩下がりで、私のお客様であるAの業績もご多分に漏れず苦しんでいました。
通常の税務申告だけをするのであれば、「数字が厳しいですね」で終わってしまうのかもしれません。しかし私はAのみなさんと一緒に売上をいかにして伸ばすか、という部分に取り組んでいったんです。
具体的にはその競技をする選手にその競技の裏方さん、さらに本部のみなさんの総勢約50名を2グループに分け、売上向上につながるアイデア発想大会を開催。さまざまなアイデアが出され、良さそうなものはすべて取り入れていきました。その中で今でも記憶に残っているのは、大きな大会の前に街に出てチラシを配ったことです。
「今時、チラシかよ」と思うかもしれませんが、そういう地道なアクションも大切だろうと私は思います。地方へ行く選手や裏方さんたちに代わり、私たちは東京・新橋の駅前のトイレでその団体のポロシャツに着替え、通り行く人たちにチラシを配っていきました。
はじめは恥ずかしかったのですが、だんだん気持ちが乗ってきて楽しみながらやれたのが意外でした。
チラシを配ったことで、大会の売上にどこまで貢献できたかは正直わかりません。ただこの一件があってからは、選手や裏方さんが私たちを単なる税理士ではなく、もう一歩踏み込んだ相談のできる仲間だと思ってくれた気がします。
失敗から得た教訓を活かして
Q.逆に失敗したことはありますか?
加瀬:ひと通りの失敗はしてきました。例えば納税する際に、お客様のスケジュールを管理しながら余裕を持って納めていただくことは我々のミッションの一つです。
ところが弊社の規模が大きくなる過程でスタッフが増えてくると、ホウレンソウの頻度が人によってまちまちになります。結果として、余裕を持った連絡をせず、期限の直前になって「いくらの納税をお願いします」みたいな連絡をしてお客様を怒らせてしまったことがあります。
Q.その失敗から得られた教訓はありますか?
加瀬:会社全体のルール作りや社員への指導や教育もしていたのですが、振り返ってみると業務が属人化していた部分がありました。それが最大の要因です。組織としてマネジメントができていなかったんです。
これをきっかけとしてスプレッドシートでスケジュールを可視化し、事前のミーティングで確認したり、日常の業務フローの中でそういったものを網羅的に管理する方法に変えていったりしました。
失敗の兆候があれば未然に防ぐ体制を築くというのが、この件で得た最大の学びです。
名参謀、諸葛孔明のように
Q.顧問先から言われてうれしかった言葉はありますか?
加瀬:企業参謀のように社長の右腕になりたいという願望が強かった私は、あるお客様から「加瀬さんは私にとっての諸葛孔明ですよ」と言われた時、体の芯を貫き通す喜びがありました。個人的にはこれは記憶に残っているうれしかったお言葉ですね。
ただ、今は弊社のスタッフがお客様から評価されているのを聞けると、自分のこと以上にうれしくなります。スタッフにも、お客様のお役にたてることの喜びをたくさん経験してほしいと思います。
Q.逆に顧問先から言われた残念な言葉はありますか?
加瀬:我々の業務の中で至らないことがあった時、お客様からご指摘をいただきます。「期待していたのに何でこうなんだ」といったお叱りです。
そのお客様が期待してお金を払って仕事を任せてくれているのに、期待に応えられないのは本当に申し訳ないことです。それについては反省の念しかありません。真摯に謝罪させていただき、二度と繰り返さないように工夫をします。
振り返ってみると、税理士事務所を開業して1、2年目で身に付けたスキルは謝罪に関することばかりだったかもしれません。
ただ、当時と今では心持ちが変わってきています。事務所のスタッフがミスをしたら、トップである私が当然、謝罪します。この時に「自分のミスではないのにな」という気持ちが微量ながらも残っていると、自分の中で消化不良を起こすんです。
ところが今は、お客様の期待に応えられなかったとか、そもそもお客様に迷惑をかけていることに対して「自分がふがいない」という自責の気持ちで受けとめるようになりました。そうすることで、今後に活かすための創意工夫につなげる可能性が出てきます。
Q.失敗から多くのことを学ぶのですね。
加瀬:はい、失敗には成長の種やヒントがあると思います。もちろんお客様に対して致命的なダメージを与えるような失敗は絶対に避けなければなりませんが。
アドバイスは家族の気持ちになって
Q.顧問先とコミュニケーションを取るうえで、気をつけていることはありますか?
加瀬:弊社では「大家族経営」を標榜しているのですが、お客様とも家族や親族であるという意識で親身にお付き合いをさせていただく、というポリシーを持っています。
例えば税金の指導をさせていただく時に「これは損金で落ちますか?」といった質問をお客様からいただきます。この時、落ちるか落ちないかを一義的に答えたうえで、「これを損金として処理すると貴社にはこんなリスクがあります」みたいに一歩か二歩か、踏み込んだ話をします。
そしてこう申し上げるのです。
「XX社長、僕があなたの兄だとしたら、こういう処理はお勧めしません」「僕があなたの弟だったら、こうしないとだめだよと言うと思います」
つまり税理士だからではなく、完全にあなたの味方である私は、あなたのことを思ってこういうアドバイスをするのです、ということをご理解いただくのです。
ここまですると、時として「お客様にこちらの意図が伝わった」と実感できることがあります。私達のお客様に対する姿勢を評価していただき、事務所のクチコミにもポジティブなものが増え、お客様の新規開拓にもつながることもあります。
ポイントは、今いるお客様の期待値を超える仕事をすることに尽きます。目の前のお客様に満足していただいていないのに、新しい顧問先をたくさん開拓するのは筋として間違っていると思います。
税理士が経営支援をするべき理由
Q.仕事におけるこだわりを教えてください。
加瀬:顧問先の社長さんは、企業を経営していくうえで人事や総務、労務など、さまざまな決断を迫られます。会計・税務はその中の一つに過ぎません。我々は税理士ですから、会計・税務を中心としながらお客様を支えていきます。しかし、そのうえで会計・税務にこだわらずに経営者の方々をサポートしていく、というのが私たちのこだわりです。
Q.どうしてそのこだわりを持つようになったのですか?
加瀬:理由は三つあります。
一点目は、出所は失念しましたが、経営者の8割くらいは税理士の仕事に満足していないというアンケート結果を見たことです。その時、悔しさを覚えると同時に、大きなビジネスチャンスを感じたんです。そこで、我々は目の前のお客様の期待に答えるサービス提供を目指そうと思いました。
二点目は、前職時代の私がコンサルタントだったことが関係しています。コンサルタントは、経営数字も含めて会社の内部情報を見る機会がほとんどありません。「この人はきっとこんなことに困っているのだろう」と仮説を立て、外部の資料をもとにそれを裏付けていくのです。
ところが会計士や税理士はその数字に直接、触れることができます。数字から「この会社がどういう状態で、どんなことに困っているか」が直接わかります。経営改善の宝の山です。そういう状況で経営面にアドバイスをしないのは、一流の食材が揃っているにもかかわらず料理をしないシェフのようなものです。
三つ目は、税理士の使命につながるものです。ある税理士さんから聞いた話なのですが、要点をまとめるとこうなります。
- 納税義務の適正な実現を図ることが税理士の使命だ
- 納税は利益がなければ実現できない
- ともすると、税理士は企業の利益の獲得、ひいては経営サポートをしていくことが必要
- なので、適切な利益を上げることを支援して国を豊かにするのが我々のミッションだ
- だから我々税理士はお客様を助けるのだ
この話を聞いた時、私は感動しました。単に税金を払わせるのではなく、その前提となる利益や売上を作る企業を後押しする、ということが税理士の使命なんです。仕事で行き詰まることがあれば、いつでもこの原点に立ち戻って使命を果たしていこうと心を新たにします。
* * *
税理士という仕事を軸として視座を高めていけば、お客様に対してできることは無限にあると加瀬さんは話します。そして、単に机上の空論で終わらせるのではなく、お客様と一緒に知恵を出し、汗をかくということでお客様の期待に答えていく。ポロシャツに着替えてチラシを配った活動も、加瀬さんの考える税理士という仕事の可能性の現れなのでしょう。
いつも理路整然と話す加瀬さんが100%の情熱で味方になってくれたなら、顧問先から信用されるのは容易に想像できます。加瀬さんのような税理士が増えれば、顧問先はモチベーションを高め、ひいては日本経済の底上げにつながるのかもしれません。
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