認知症の祖母の介護と受験勉強の両立の末、14年で掴み取った税理士資格
サテラ伊都 代表 古賀健太さん
徘徊の恐れから日中も目の離せない祖母の介護、次々にのしかかる仕事のプレッシャー、いつまで続けるのかわからない試験勉強。そうした苦難のなか、勉強を始めてから10年を超えて資格を取得した税理士がいます。
サテラ伊都(いと)の代表を務める古賀健太さんです。
今年7月、祖母が看護施設に入ることになったのを機に、自身の税理士事務所で本格的に業務を始める算段を付けた古賀さん。自宅兼事務所からスタートする古賀さんの挑戦は、第一幕が上がったばかり。果たして古賀さんは、どんな未来予想図を描いているのでしょうか?話を聞きました。
お話を伺った方:サテラ伊都 代表 古賀健太さん
30歳を過ぎてシステムエンジニアから会計職への転職を志す。会計知識ゼロから税理士試験合格を目指すも、40歳ごろから試験合格による資格取得は難しいと感じ、熊本学園大学大学院 会計専門職研究科へ入学。在学中の税法論文テーマは、競馬所得に関する取扱いについて。2021年3月に同大学院を卒業し、2021年11月に税理士資格を取得。2022年2月に九州北部税理士会に税理士登録を果たす。
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ITに精通する税理士の流儀
2022年2月に税理士として独立開業を果たした古賀健太さん(サテラ伊都 代表)。過去にシステムエンジニア(SE)をしていた経験があり、顧問先の業務のIT化においてアドバンテージを持っています。開業してまだ日が浅い古賀さんですが、顧問先を着々と増やしている理由について次のように話します。
そう語る古賀さんですが、SEとしてのキャリアは決して順風満帆ではなかったとも話します。
SE時代に地方自治体の総合ソフトウェアを作っていたという古賀さん。住民税や国民健康保険といった機能をメンテナンスした経験があるそうです。そんな古賀さんは、SEと税理士の仕事の同一性と差異を次のように語ります。
ですから、私以上にお客様のほうが期限にシビアなケースも多く、お客様からの協力を得やすいので、仕事のスケジュールを立てやすい、やりがいを感じるという良さがあると思います。
元SEから見た税理士業界のIT化
AI(人工知能)やRPA(業務自動化)が全盛となっている今日、税理士の在り方が変わってきていると古賀さんは指摘します。
ただ機械の設定や確認といった部分は、どうしても人がやらなくてはいけないので、今後の税理士にはそのあたりの見方というものが求められると思います。
単にセッティングだけして後は機械に任せればいい、というのは誰にでもできる仕事です。そこだけでなく、その後のチェックやスケジューリングをどうするか、業務をどう組み立てるか、数字から何を読み取るのか、といった部分に知恵を絞り、お客様に上手く提案・説明できることが重要になると古賀さんは話します。
また古賀さんは、地方の中小零細企業はまだまだIT化に積極的ではないと感じているそうです。例えば先ほどの銀行データの取り込みについても、「試しに使ってみましょう」と提案しても、それ以前にインターネットバンキングを導入しておらず、振込手続きは毎回最寄りのATMで行っている、というようなケースも多々あると言います。IT業界出身の古賀さんは、自身の事務所では元SEならではの知見を活かし、新しい試みに積極的に取り組んでいく方針を立てていくそうです。
祖母の介護、仕事、受験勉強の日々
古賀さんは30歳を過ぎてから税理士資格を取得を目指し、会計事務所に勤め始めます。それからしばらくして、大分県で一人暮らしをしていた当時90歳の祖母の様子があまりよい状態でないことがわかり、近所に呼び寄せ半同居の形で介護を始めます。
介護は古賀さんと実父が交代で行いました。誰かが見ていないと、祖母は近所を徘徊してしまい、警察のお世話になったこともあるそうです。
介護をしながら税理士事務所で働き、何とか時間を捻出して税理士試験の勉強を進める。そうした状況のため、最後に勤めた税理士事務所ではフルタイム勤務が難しくなり、やむなくその事務所を辞めることになりました。
一方で、良いニュースもあります。この7月、祖母に介護施設に入所してもらう算段を取り付け、「本格的に税理士として仕事を始める準備が整いました」と古賀さんは決意を込めて言います。
冒頭で述べたように2月に税理士資格を取得してからも祖母の介護のため、フルタイム勤務は叶わなかった古賀さん。遠回りはしましたが、今年46歳を迎え、税理士として第一歩を踏み出したのです。
顧問先と税理士は対等であるべき
そんな古賀さんには夢があります。どこの事務所も、最低でも年に1度は決算報告を行います。その場に代表税理士が出席するのはとても大切なことだと古賀さんは考えています。
古賀さんはまた、税理士試験に何度も合格できない人に向け、厳しくも温かいメッセージを送ります。
私のように受験生期間が10年を超えている方も珍しくありません。短い人生の貴重な時間を無駄にしていないか、時々、自分の心に聞いてみることが必要です。
自分で期限を区切って、見込みがないのなら一職員としてがんばるとか他の道を目指すとか、メリハリをつけるのは大切なことです。仕事も試験も中途半端になってしまうのが、いちばんもったいないと思います。私自身、受験期間が長引いてきたと感じたため、試験合格にこだわらず、最後は大学院修士論文での免除合格に切り替えました。
古賀さん自身、祖母の介護もあって税理士試験に合格したのは勉強を始めてから10年目。その間に想うことがたくさんあったのかもしれません。
今はまだ自宅兼事務所でスタートしたばかりですが、これから顧問先を増やして事務所を持って看板を掲げられるようになることが目下の目標です。
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SEから税理士へ、46歳にして異色の転職を果たした古賀健太さん。自宅兼事務所から本格的にサービスを始めたのはつい先月のこと。家族の一員として、祖母の介護という責任を果たしつつ、仕事と勉強を並行し、掴み取った税理士の資格。
確かなITリテラシーを武器として、福岡県に根を張ろうとする古賀さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。
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