事業承継で700万円の赤字が300万円の黒字に ニーズが高まる小規模M&Aの実態

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マイクロM&A税理士協会 代表

都 鍾洵(みやこ しょうじゅん)さん

従業員3名以下、譲渡価格3,000万円以下など、いわゆるスモールM&Aをさらに小規模にした「マイクロM&A」が注目を集めています。

小規模M&Aを手掛ける組織として2022年5月にスタートした全国マイクロM&A税理士協会は、各種の支援に関するノウハウを税理士向けに開示しています。

この記事では、同協会の代表を務める税理士の都 鍾洵(みやこ しょうじゅん)さんへのインタビューを通して、増え続ける小規模M&Aの実態を明らかにします。そのうえで7月より本稼働する協会のノウハウの一端を示しつつ、税理士としてマイクロM&Aに取り組む際のポイントを紹介します。

お話をうかがった方:全国マイクロM&A協会 代表 都 鍾洵 さん 大阪市出身。税理士。顧問先を中心に小規模M&Aを積極的に支援。これまで印刷業・広告業・飲食業・音楽教室など多数のM&A仲介実績を持つ。自身でも飲食業・人材派遣業の事業譲渡を売主側で実際に経験。「税理士にしかマイクロM&A支援できない」と強い想いを持つ。2022年5月に全国マイクロM&A税理士協会を設立。 ホームページはこちら

スモールM&Aよりもさらに小規模なM&A

Q.マイクロM&Aとは何でしょうか?

都さん(以下、都):当協会では、以下のいずれかの条件を満たす案件をマイクロM&Aと定義しています。いわゆるスモールM&Aよりもさらに小規模な事業譲渡を指します。

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出典 マイクロM&A税理士協会

Q.マイクロM&Aの件数は増えているのでしょうか?

 

都:はい、増えています。例えば、事業承継・引継ぎ支援センターという国の機関が公表したデータを見ても、小規模な事業承継は案件数、成約件数のどちらも右肩上がりになっています。

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出典 事業承継・引継ぎ支援センター

M&Aの仲介手数料は高すぎる

Q.マイクロM&A税理士協会を創設した経緯を教えてください。

都:結論から申し上げますと、一般にM&Aの仲介手数料が高すぎるという現実があり、それを是正するために協会を作りました。

我々は明和マネジメント税理士法人という税理士事務所を母体とする組織です。明和マネジメント税理士法人には220件ほどの顧問先がありまして、4年前から顧問先に対してM&Aの支援を行ってきました。

我々は従業員10人ほどの小さな事務所ですが、譲渡額が300万円とか500万円とか、小規模ながらもM&A案件が年に3、4件は発生しています。

我々が地元の大阪でがんばっても、M&Aを支援できるのはせいぜい年に3、4件。一方で、小規模なM&Aのニーズは全国にあるだろうと思い、我々がこの4年間で築き上げてきたノウハウを全国の税理士の方にお伝えすることにしたんです。それを通して、黒字なのに廃業せざるを得ない事業者、特に小規模な事業者を支えたいと思っています。

Q.税理士が貴協会に入るためにはどんな手続きが必要ですか?

都:手続きは簡単で、入会届と引き落とし用紙にご記入いただくだけです。ただ、入会金として5万円かかります。また会費は月に2万円と3万円のどちらかを選んでいただく形になります。当然、3万円のほうが手厚いサービスを受けられます。

Q.具体的に貴協会からどんなサービスを受けられるのでしょうか?

①  M&A案件の獲得方法、②買い手の探し方、③ディール(M&A取引全般)の進め方、④デューデリジェンス方法、といったものを動画研修を通して理解していただきます。

他にも、マイクロM&Aが全国で盛り上がっている理由や、案件全体の進め方を把握していただいたうえで、売り手の事業の簡易的な評価方法や仲介契約の結び方、企業が行う書類の作成方法などをひと通り学びます。

M&Aは一度やってみるとそんなに難しくはないことがお分かりいただけるのですが、専門用語が多い点には注意が必要です。秘密保持や利益相反、COC(チェンジ・オブ・コントロール)、ロックアップといった用語、あるいはM&Aを実施する際に使える補助金などについても、計8時間かけてじっくり説明します。

2万円のコースと3万円のコースがあると申し上げましたが、前者は準会員、後者は正会員と呼んでいます。当協会がM&A案件を紹介するのは正会員のみで、準会員はノウハウや知識を高めるところまでが当協会としてのサービスになります。

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Q.動画を視聴するだけで現実のM&Aを完遂できるものでしょうか?

正会員の方には、初回のM&A案件については協会のスタッフが伴走する形で、成約までをトータルにサポートします。

多くの場合、税理士の方はもともとコミュニケーション能力も財務の知識もお持ちなので、手始めに1件やってしまえば2件目、3件目を手掛けるのはそんなに難しくないと思います。

Q.料金を支払えば誰でも正会員になれるのですか?

都:正会員になるにはテストに合格する必要があります。専門用語や、M&Aを行ううえで不可欠な事柄を確認させていただき、合格した方だけが正会員として案件の紹介を受けることができます。テストの想定合格率は30%程度です。

M&Aの支援はAIに代替されない

Q.正会員になって実際のM&Aを実施するに当たり、仲介手数料はどのくらいに設定すればよいでしょうか?

都:当協会では目安として価格表を作っています。これは仲介手数料の上限額を表したものです。

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1 株式譲渡額は、株式・事業の譲渡価額(役員退職金も含む付加価値 )をいう。

2 着手金は当社とのアドバイザリー(仲介)契約時1週間以内(返金無)、契約時の希望価格による。

3 中間金は譲受企業と譲渡企業との基本合意契約時1週間以内(相手先都合による不成立時に限り返金)その時点の合意価格による。

4 成功報酬は譲受企業と譲渡企業との株式(事業)譲渡契約時3日以内(返金無)契約時の譲渡額による。

5 基本合意時と株式(事業)譲渡時の金額に相違がある場合には差額を成功報酬で差引して調整。リテーナーフィー(月額報酬)は不要。監査報酬、弁護士報酬等別紙アドバイザリー契約業務範囲外は別途。

出典 マイクロM&A税理士協会

Q.マイクロM&A税理士協会の今後の展望について教えてください。

都:昨今、税理士は「将来、なくなる仕事」のトップ3に選ばれています。AI(人工知能)が仕訳や記帳、申告書の作成を行うようになると、確かに既存の税理士業務は失われるかもしれません。実際、クラウド会計ソフトの開発元であるfreeeは自動仕訳や申告書の無料作成といった機能をリリースし始めています。

このままでは我々、税理士の価値はどんどん減少していきます。AIに代替できない仕事、すなわち事業計画の作成や補助金の支援、そしてM&Aの支援といった部分で頭をひねらなくてはなりません。

特にM&Aの支援は売り手のバックボーンを知らないとできないので、AIに代替されることはないと思います。

当協会は5月17日に発足したばかりですが、税理士の方に続々と入会していただいています。本格的に始動するのは7月ですので、7月以降、成約したM&Aの事例をお見せできるようになると思います。

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700万円のマイナスが300万円のプラスに

Q.例えばどんな形でマイクロM&Aが行われるのでしょうか?

都:協会の事例ではないのですが、過去に私がお手伝いさせていただいた案件をご紹介したいと思います。

舞台は2店舗を運営する音楽教室です。もともと月に5~10万円くらいしか営業利益が出ておらず、代表者はコロナ禍が広がった時点で教室を畳もうと考えていました。フルートやオーボエなどの木管楽器を教えており、飛沫感染のリスクが高かったからです。

賃貸物件のオーナーに教室を閉める旨を伝えると、「原状回復してください」と言われ、リフォーム業者からは700万円の見積もりが届きました。

この教室の代表者から依頼を受けた私が色々な譲渡先に打診してみると、思いのほか多くの手が挙がり、最終的に約300万円で事業譲渡に成功しました。700万円を支払わなければならなかったものが、逆に300万円のプラスになったので1,000万円くらいの経済的な利益があったのです。

その音楽教室ではM&A後も、35人の生徒と6人の講師は誰も辞めずに済みました。譲渡先にとってもゼロから生徒を探すのではなく35名を引き続き受け持つことができ、黒字でスタートが切れたことは大きかったと思います。売り手も買い手も税理士にとってもメリットのある、まさに三方良しのM&Aだったと思います。

このようにマイクロM&Aはさまざまなニーズに応えるものだと確信しています。

*     *     *

2022年中はお試し期間として、数を限定し、すべての動画講習を無料で受けられるようにするという都さん。直近の目標として、47都道府県に少なくとも1事務所ずつ協会員になってもらうこと、さらに大きな目標として会員数を1,000事務所にすることだと語ります。

小さな企業の後継者不在が社会問題になっている日本。税理士の立場からこの問題を解決しようというチャレンジは今、始まったばかりです。

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