【顧問税理士インタビュー】社長に伴走する税理士が無借金経営にストップをかけた理由
鈴木史郎税理士事務所 代表税理士 鈴木史郎さん
こちらの記事で取り上げた株式会社アールナインは、東京・大崎を拠点とする鈴木史郎税理士事務所と顧問契約を結んでいます。同事務所の代表税理士を務める鈴木史郎さんは、顧問先の経営支援で数多くの実績を持っています。
無借金経営にこだわるアールナイン社の長井亮さん(代表取締役社長)を説得し、金融機関から借入するよう導いた鈴木さん。どんな言葉で長井社長を翻意させたのでしょうか?話を聞きました。
お話をうかがった方:鈴木史郎税理士事務所 代表 鈴木史郎さん
東京都東久留米市出身。神奈川県鎌倉市で育つ。1999年に税理士試験に合格。川崎、新宿の会計事務所での勤務を経て、2008年1月に独立開業。税務・会計・財務コンサルティング、経営支援業務に邁進中。趣味は読書、お笑い、映画・音楽鑑賞。
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中小企業のかかりつけ医にあこがれて
Q.貴事務所の近況を教えてください。
鈴木さん(以下、鈴木):2008年1月に開業して、今年で15年目になります。スタッフは私を含めて5名。一人暮らしをしていた荻窪のアパートから始まり、そのあとに目黒、そして現在の大崎へ移ってきました。移転するたびに少しずつオフィスの規模が大きくなり、今に至っています。
特徴としては税務や会計だけでなく、財務や資金調達、経営支援にも力を入れている点が挙げられると思います。
Q.税理士になろうと思ったのはなぜですか?
鈴木:大阪府で司法書士事務所を経営していた叔父の影響で、士業というものに興味を持ちました。税理士になりたいと思ったのは、税理士のことを「中小企業のかかりつけ医」だと紹介している書籍に出会ったからです。将来は税理士になって自分の事務所を構えてみたいという夢が膨らみました。高校生の頃の話です。
Q.実際に税理士になってみて、どんなことにやりがいを感じていますか?
鈴木:普通ではなかなか会えない社長さんたちに時間をいただいて、色々な相談を受け、役に立てるところだと思います。
社長の目からウロコが落ちたアドバイス
Q.貴事務所の顧問先であるアールナイン社の長井社長は、会社を設立した当初、借金することを嫌がったと聞いています。
鈴木:借金を嫌がるのは当然だと思います。特に創業して間もない頃は、計画どおりに売上が上がるか不安もあるでしょう。借入をして、もし返せなくなったらどうしようという気持ちになるのもわかります。資金繰りに神経を使うのは当たり前のことです。
ただ、お金のことを考えるあまり、中長期的な計画をおざなりにしたり、良い仕事ができなくなってしまったりしては本末転倒です。私はそのことを危惧し、「唯一無二の時間をお金で買いましょう」と長井社長にアドバイスさせていただきました。
Q.無借金経営をすることが優良企業の証だと当時の長井社長は考えておられたようです。
鈴木:極端な例ですが、借金はない代わりに500万円しか手元にない会社と、5,000万円の借入を含めて5,500万円が手元にある会社ではどちらが安定しているか、という話をさせていただきました。後者は相殺すれば500万円が手元に残るので、前者と同じ財務状況です。
長井社長は創業したばかりの頃、お金の面が不安です、とよく口にしておられました。ですから「社長、借入があること自体は悪いことではありません。やはり手元にお金をきちんと用意して、安心して仕事に集中しないと会社は成長できません」ということを申し上げたんです。
この話をした時に、長井社長は腑に落ちた表情をされたことが記憶に残っています。
もちろん闇雲に借金をすればいいということではありません。どうやって利益を出すかという点もあわせて数字を把握することが大切です、と私が申し添えたのはそのためです。
顧問先を「うちの会社」と言う税理士
Q.鈴木さんはアールナイン社のことを「うちの会社」と表現すると伺いました。
鈴木:税理士事務所には依頼された仕事を淡々とやる、というところが多いのですが、それではダメだと思います。お客様が気づいていないようなニーズを探したり、経営上のウィークポイントを指摘したり、何が提案できるのか常に気を配らなくてはなりません。
こうしたことはお客様との間に信頼関係が築けていないとできません。評論家みたいな立場で接しても、お客様は心を開いてくれないのです。
私はいつも、自分がその顧問先の一員になった気持ちで話すようにしています。それが「うちの会社」という表現になったのだと思います。
後悔から始まった経営サポート業務
Q.ひと口に経営支援と言っても、一朝一夕にはできないと思います。鈴木さんはどうやってスキルや経験を身につけたのですか?
答えにならないかもしれませんが、必死にやって来た、というのが私からの回答です。経営には原理や原則みたいなものがあります。それは私が教えるのではなく、社長が自ら気づくように導いていかなければなりません。答えは社長の中にあるのだと思います。
今の私にできるのはわずかなことだけです。今後も、もっともっと学んでいかなければいけないと思っています。
この境地に達するまでに、色々な失敗を経験してきました。例えば私の顧問先の企業が、インセンティブを中心とした営業体制に一気に舵を切ったことがあります。営業職をいわゆる出来高制に近い形に切り替えたんです。
言葉は悪いのですが、馬の鼻先にニンジンをぶら下げた状態にして競わせる方法です。その時、私なりに思うところはありましたが、何も言えませんでした。当時は税理士は税務や会計に注力すべきで、経営的な課題に口を出すものではないと思っていたからです。
結局、その企業ではリーダー格の社員がみんなを引き連れて辞めてしまいました。この出来事は今でも強い後悔の念と共に記憶に残っています。インセンティブそのものが悪いとは思いませんが、導入するのであれば丁寧な説明が必要だったのだと思います。
アールナイン社をはじめ、お客様に対して経営に関する事柄でも私が口出しするようになったのは、この時の後悔と、違和感を持ったら社長に申し上げるべきだという自戒の念からです。
聞くことで勝ち取った信頼
Q.アールナイン社の長井社長は、「鈴木さんは聞く耳を持っている」とおっしゃっていました。
鈴木:ありがたいお言葉です。実際にお客様の話を聞くことは大切にしています。表面上の話だけではなく、お客様の本当の望みや悩みを理解して誠実に対応しよう、とは弊社のスタッフには日ごろから言っています。
お客様の価値観や人生観、ビジネス上のゴールなどを、日々の仕事の中で自分なりに感じ取っていくことが重要だと思っています。そうすることでお客様の考えに合ったソリューションを提案できるようになるからです。
Q.事務所のミッションやビジョンを教えてください。
弊社のミッションは「日本中の中小企業を元気にして、そこで働く人々と家族を幸せにする」ことです。ビジョンは「所員の幸せを追求し、人間性を高める。お客様に喜ばれ感謝される」ことです。
ご承知のとおり日本の全企業のうち99%は中小企業で、全労働者の7割近くが中小企業で働いています。お客様や弊社の所員も含め、中小企業に関わるみんなが経済的にも心の中も豊かになることが、税理士事務所の存在意義だと思っています。
税理士事務所の仕事はAI(人工知能)に取って代わられると指摘されて久しいですが、ITやAIが発達するのは我々にとって喜ばしいことだと思っています。実際、税務や記帳代行に関しては、昔ほど手間をかけなくても良くなっています。税理士は経営支援を含む付加価値の高い業務に集中できる環境が整いつつあります。これは歓迎すべき状況だと考えます。
私のアドバイスを取り入れてくださった長井社長が率いるアールナイン社をはじめ、私どものお客様は一生懸命で粘り強い方々ばかりです。今後もお客様の役に立てるように鍛錬していきたいと思っています。
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無借金経営を優良企業の証と考えていたアールナイン社の長井社長。顧問税理士である鈴木さんの「時間をお金で買いましょう」という助言を聞き入れ、金融機関からの借入を決心したのは、互いに信頼関係で結ばれていたからです。
鈴木さんは53名いるアールナイン社の全社員の名前を把握するなど、「顧問先の一員」として振る舞うことで信頼を勝ち取りました。開業15年目を迎えた鈴木史郎税理士事務所と、開業13年目を迎えたアールナイン社。トップ同士の二人三脚はこれからも続いていきます。
取材協力 鈴木史郎税理士事務所
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