バブルを知る税理士の持論は「普通ではダメ!」30年前に経営支援をスタートした先見の明

加熱する土地取引、財テクブーム、金余り、楽勝就活――。1980年代半ば、日本経済は空前のバブル景気に突入します。福島県本宮市に事務所を構える鈴木正人さん(株式会社本宮会計センター 代表取締役)は、バブルを知るベテラン税理士の一人です。今年でキャリア32年を迎える鈴木さんの信念は、「税理士は普通ではダメ!」。その真意とは一体どんなものなのでしょうか?話をうかがいました。

お話をうかがった人:株式会社本宮会計センター/鈴木正人さん
福島大学経済学部卒業。平成4年に開業。平成6年に株式会社本宮会計センターの代表取締役に就任。「笑顔と幸せの社会を実現する」をビジョンに掲げ、中小企業の経営支援、相続支援、講演活動などを行っている。税理士、ファイナンシャルプランナー、金融広報アドバイザー、福島大学非常勤講師。
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億単位の節税案件を手掛けたバブル時代

今年、還暦を迎えた鈴木さんは、1975年に実父が創業した株式会社本宮会計センターの現代表を務めています。1980年代半ばから1990年代前半にかけてのバブル景気とその崩壊、そしてWindows 95の登場によりパソコンが爆発的に普及する過程を現役の税理士として経験してきました。そんな鈴木さんの税理士に関する原体験は、父の事務所に顔を出していた大学生時代にまでさかのぼります。

鈴木様インタビュー_丸アイコン鈴 木
届け物をしに事務所に行くと、所内は静まり返っていました。事務員がそろばんをはじくパチパチという音、電卓をたたくカタカタという音、書類をめくるシャキシャキという音だけが聞こえるんです。呼吸ができないくらい静かで、僕にはこの雰囲気の中で働くのは無理だなと思いました。

今から約40年前、鈴木さんが大学生だった頃は、商社への就職が花盛りの時代。大学の先輩の多くが商社へ進んだこともあり、鈴木さんも商社マンになる夢を持っていたそうです。

鈴木様インタビュー_丸アイコン鈴 木
世界を股にかけるビジネスマンになって、でかい金を動かして金持ちになるぞ、なんて思っていたんですが、結局は親父に逆らう勇気がなくて税理士事務所を継ぐことにしました。就職活動はせず、大学卒業後に上京して専門学校で税理士の勉強を始めたんです。半ば嫌々やっていましたが。

ところが最初に雇ってもらった東京都港区青山の税理士事務所で、思いがけない経験をします。

鈴木様インタビュー_丸アイコン鈴 木
静まり返っていた親父の事務所とは異なり、東京の税理士事務所は華やかに感じました。おまけに税理士は儲かるぞという話も聞き、現金なもので税理士試験に向かうモチベーションが高まってきたんです。

1989年に税理士試験に合格し、そのまま東京に残って青山の事務所での勤務を続けた鈴木さん。当時はバブル景気の真っただ中で、高揚感に包まれた中で税理士としてのキャリアをスタートさせます。折しも、財を成した実業家たちから節税の指南役として会計事務所が脚光を浴び始めた時期でもあり、税理士という仕事に父親の事務所で感じた暗さはなかったと鈴木さんは振り返ります。

鈴木様インタビュー_丸アイコン鈴 木
青山の街中は華やかで、行き交う人たちはキラキラして見えました。事務所のスタッフには20代の若者が多く、雰囲気はとてもにぎやか。バブル景気に後押しされた成長企業を相手に税務を手掛けていたのですが、億単位の節税につながる案件も珍しくなく、若さゆえにその規模感に大きなやりがいを感じました。なにせ自分の目の付けどころ次第で、税金の額が数千万円も変わってくるんです。恐ろしくも楽しくもありました。

時代を先取りして経営支援を手掛けるように

東京での仕事に未練を残しながらも、31歳の時に母親に呼び戻されるかたちで地元の福島県に帰った鈴木さん。「地元に戻ってから、本当の意味での税理士人生が始まったと思います」と語ります。

1995年、Windows 95の登場によってパソコンが爆発的に普及すると、企業の税務申告業務は劇的に効率化されます。手書きの時代からデジタルの時代に置き換わったのです。「これからの会計事務所は税務申告だけでは生き残れない」と直感した鈴木さんは、時代を先取りして企業の経営支援に乗り出すことを決意します。

当時の福島県には経営支援を行う会計事務所はほぼ皆無。「経営支援なんて儲からない、会計事務所は税務と会計をやってなんぼだろう」というムードの強かった同業他社に先駆けて、中小企業への経営支援をサービス化します。

鈴木様インタビュー_丸アイコン鈴 木
ちょうどAI(人工知能)の台頭により税理士業務が見直されつつある現在と、当時の状況はよく似ていると思います。「税務と会計をやって対価を得るビジネスモデルが出来上がっているのに、なぜわざわざ苦労することをやるのか」と周りからよく言われました。実際、経営支援はどこの事務所でもサービス化も商品化もされていなかったんです。そうした状況下で試行錯誤するうちに、僕のアドバイスを受け入れてくれたお客様の中に業績が上向くところが1社、2社と出てきました。次第に噂が噂を呼び、お客様の数が増えてきて「これは行けるぞ」という手応えを掴んだんです。

いちばん印象に残っている事例として、事業承継を支援した製造業の顧問先を鈴木さんは挙げます。

父親から経営者の立場を譲り受けた二代目社長は、経営ノウハウを引き継ぐことができず次第に業績は悪化。営業利益が1,000万円以上あった会社は、代替わりして二年目に4,000万円の赤字に転落します。危機感を募らせた二代目社長は、鈴木さんに相談。以降の半年間、鈴木さんは二代目社長と毎週のように会合を持ち、決算書や原価の仕組み、原価管理や原価計算などをレクチャーし続けました。

鈴木さんからのアドバイスを忠実に実行した結果、三年目から黒字に転じたその会社は、現在でも鈴木さんの顧問先としてたびたびメディアに登場する優良企業に育っています。

鈴木様インタビュー_丸アイコン鈴 木
その時は、僕も経営学のテキストを取り寄せたりして必死に勉強しました。正直に言うと自分のアドバイスが正しいか、自信はなかったです。税理士事務所が経営支援に乗り出す必要があるだろうという機運は出始めていましたが、なにせ実際にサービスを提供している事務所はほぼ皆無でしたから。その中で何とか結果が出せたので、大きな自信になりました。

普通ではダメ、自分たちならではの価値を提供する

そんな経験を持つ鈴木さんには確固たる信念があります。それは「普通ではダメ!」というものです。

福島県に戻ってきた当初、営業活動を兼ねていろいろなコミュニティに顔を出し、経営者の知り合いを増やしていったという鈴木さん。その中で「税理士事務所ってどこも同じだよね」とか「税理士事務所って過去の数字を集計してお金がもらえるんだから楽な仕事だよね」と言われたことがあったそうです。

「それを聞いて、なにくそと思うと同時に、普通のことをしていたらダメなんだという気持ちが強くなりました」と鈴木さん。経営支援を始めたのもその思いがあったからです。今でも、顧問先を招いて勉強会や経営計画発表会を行ったり、コネクションを持つ投資ファンドのトップやコンサルタントを東京から呼んで講演会を開いたりしています。こうした独自の取り組みが、企業経営者や金融機関の担当者からの「本宮会計さんは他とは違うよね」という評価につながっているのです。

鈴木様インタビュー_丸アイコン鈴 木
税務で差別化することはできません。コンサルタントなど、経営者に対して『こうすれば儲かるよ』とアドバイスをする人もすでにいます。我々も税務や経営のアドバイスは行いますが、それ以外の部分で価値を提供することが自分たちの役目だと思っています。普通ではないこと、他の人がやらないことをやる。それが僕の信念です。

実際、社長の個性が強すぎるため他の税理士事務所に断られた会社や、一度も税務申告をしたことがない会社など、一筋縄では行かないリスキーなケースでも、鈴木さんは受け入れることが多いのだとか。困ったことがあったら、とりあえず本宮会計センターへ――。そんな唯一無二の存在になることが鈴木さんに課せられたミッションなのです。

*  *  *

日本経済の循環の中で、中小企業は質量ともに大きな役割を果たしていると鈴木さんは指摘します。経営支援も含め、さまざまな取り組みで中小企業を支える鈴木さんは、東北地方の重鎮にしてトップランナーでもあります。鈴木さんに続く税理士が増えてくると、日本経済はさらに活性化していくことでしょう。

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