「認定 いい税理士」の荻島宏之さんに聞く!「倒産する会社を1社でも減らしたい」の想いに込められた物語
「君は税理士の仕事の本質をわかっていない――」。駆け出しの頃にそう叱責を受けた荻島宏之さん。それから20年が経った現在、いい税理士協会が認定する「いい税理士」として、中小企業の経営を支える多忙な日々を送っています。今回はそんな荻島さんに、経営支援を始めたきっかけややりがいなどについて伺いました。
お話をうかがった人:株式会社start-with/荻島会計事務所 荻島宏之さん
大学を卒業後、25歳で税理士試験に合格。税理士法人に12年間勤務した後、2013年6月に独立。経営計画の策定や経営者向けの研修など、税務・会計分野だけでなく、会社の経営改善を支援するサービスを数多く手掛ける。社長一人で始めた会社が何十人もの社員を抱えるような企業に成長する様を間近で共有できる税理士の仕事に誇りを持っている。まだ世にない価値を創り出す「起業」を支援することに力を注いでおり、自身でも新たな事業の創造にチャレンジすべく、「一般社団法人 いい税理士協会」の立ち上げに参画。同協会の理事を務めている。
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経営支援のきっかけは蕎麦屋での悩み相談
Q.顧問先の経営支援に興味を持ったのはいつですか?
最初のきっかけは学生時代に読んだ雑誌の求人情報です。その求人に「中小企業の経営支援ができる税理士を募集します」と書いてあって面白そうだなと感じたんです。当時私は税理士試験の勉強中で、税理士になったら中小企業の経営に関わる仕事がしてみたいと思いました。
Q.経営支援を始めたきっかけを教えてください。
最初に経営支援に携わったのは、キャリアをスタートさせた税理士法人に勤務していた頃です。当時は蕎麦屋の決算を担当していたのですが、学生時代に経営支援をしたいと思ったことなどすっかり忘れて、税務申告や記帳代行などの業務に忙殺されていました。そんなある日、私が所属する税理士法人の代表に呼び出されて「荻島さんは税理士の仕事の本質をわかっていない。経営者が何を望んでいるのか、ちゃんと聞いてきなさい」と言われたんです。
最初は意味がよくわからなかったのですが、改めて蕎麦屋の店主に話を伺ってみると、商品原価をどう下げるか、新メニューをどう開発するかといった悩みを抱えていることがわかりました。そこで自分なりに行動を起こしてみたんです。例えば、商品別の売上データをレジで集計できていなかったので、注文伝票を借りて商品別の販売数を集計しました。また、メニュー別のランキングを作成してABC分析を行い、業績への貢献度合いを視覚化してメニューを絞り込んだりもしました。これらを店主と一緒にやったんですが、それまでぼんやりしていた「売上」が具体的に見える化されたことをすごく喜んでくれました。この経験を通して、代表税理士に指摘された「税理士の仕事の本質」がわかった気がしたのと同時に、経営者に寄り添うことは面白いなと実感しました。
Q.倒産する会社を減らしたいという強い思いを持っていると伺いました。どんなきっかけでその思いを持つに至ったんですか?
経営が立ち行かなくなったお客様のことを今でもよく覚えています。残念なことにそのお客様は半年後の倒産が不可避という状況だったのですが、そこの社員の方から結婚式に招待していただいたことがあるんです。会社が倒産することは社員には伏せられており、知っているのは経営陣と私のみ。温かくてとてもいい結婚式だっただけに、半年後にはこの会社がなくなってしまうと思うと、やるせない気持ちになりました。この経験を通して、倒産する会社を世の中から1社でも減らしていきたいと強く思うようになったんです。
やりがいは経営者と気持ちが通じ合ったとき
Q.経営支援の仕事の中で、特にやりがいを感じるのはどんなときですか?
二つあります。一つは、自分の想いを経営者が受け止めてくれたと感じたとき。もう一つは、普通は周りの人には話さないようなことを話してくれたときです。
Q.自分の想いを経営者が受け止めてくれるというのは?
経営者に自分が必要とされたときという意味です。以前、顧問先の全社集会に参加した際に、経営者の方に掛けていただいた言葉が印象に残っています。その顧問先は20年来の付き合いがある飲食店なのですが、当時は業績が良くなく、事業の再構築を模索している最中でした。そこで社長が社員からもアイデアを募ろうと、全社員が参加する集会を開いたんです。
集会の冒頭で社長から会社の現状に関する説明と、もう一度ゼロから会社を良くしていきたいという挨拶がありました。ところが社員の反応は芳しくなく、社長の危機感と社員の意識に大きなズレがあるように見受けられたんです。このままでは社内が分断してしまうという懸念を持ちました。そこで集会の中で時間をいただき、このままでは会社の存続が危うくなるという事実を社員にきちんと認識してもらい、社長の危機感を少しでも深く共有できるようにしたんです。
最終的に話し合いが終わったのは夜中の3時ごろ。帰り支度をしているときに、社長や奥様に「どうしてうちのためにここまでしてくれるの?」と尋ねられました。私としては当然のことをしているつもりだったのですが、一介の税理士が明け方まで話し合いに参加していたことが意外に映ったのかもしれません。「お客様の役に立ちたいと思うのは、税理士として当たり前のことです」と私は答えました。このときのように会社を立て直そう、よくしようと奮闘されている経営者の方に必要としていただけると、とてもやりがいを感じます。
数年後、残念ながら社長は病気で亡くなられました。しばらくは社員の方を中心に何とか会社を継続していこうとしていたのですが、ご遺族の意向もあり最終的には店じまいになったんです。ただ、夜中の3時までの話し合いをきっかけに信頼関係が深まったためか、社長が病気になられた際、奥様や社員のみなさんが私を頼ってくれました。本当に税理士冥利に尽きるなと思います。
Q.もう一つのやりがいは「普通は周りの人には話さないようなことを話してくれたとき」ということですが、これはどういう意味ですか?
以前、あるアパレル業の社長から「社員が会社のことをどう思っているのかわからない」と相談されました。確かに、その社長はどちらかと言えば高圧的な態度をとってしまう傾向があり、私も社員の方からたまに愚痴を聞いていたんです。その会社の業績は起業からしばらくはうなぎ登りだったのですが、私が社長からこの言葉を聞いたときは下降ぎみでした。
社長も内心では社員と協力して何とか業績を立て直したいと考えていたものの、社員から社長に提言できる雰囲気ではありませんでした。その状況に悩まれ、愚痴とも相談とも言えぬ感じで私に胸のうちを話してくださったんです。そして社長のほうから「一度、私の代わりに社員の話を聞いてくれないか」と切り出され、社員のみなさんと話をしました。すると、スタッフ同士の協力体制ができていないことへの不満や、予算などの制約があって自社ブランドをうまく展開できないことへの不満などが噴出。そうした不満に私なりの意見を添えて社長に報告したんです。この一件があってからは、社長とはお互い遠慮せずに何でも話せる間柄になりました。
経営者は会社の中で最も重い責任を負う立場にありますから、気軽に弱音を吐くことはできません。弱音を吐ける数少ない相手として私に頼っていただけたことがうれしかったです。
いい税理士認定を受けたことで新たな顧問先と出会えるように
Q.「いい税理士」として協会から認定されたことでメリットはありましたか?
頑張って会社を大きくしようとしている中小企業の経営者から、「いい税理士協会のホームページを見て連絡しました」と問い合わせをいただいたことでしょうか。当事務所の場合、新規顧客の開拓は既存の顧問先からのご紹介がほとんどなので、経営者の方から突然連絡をいただいて驚きました。こうしたお客様の場合は白紙の状態から話を始められるので、事務所としての新しいサービスや取り組み、それに伴う適切な顧問料も提案しやすくなります。既存の顧問先からのご紹介となると、サービスも顧問料もそのお客様に引っ張られてしまう傾向がありますから。
Q.「いい税理士」の認定を受けてから、よりご自身に合った顧問先と出会えるようになったということでしょうか?
そうです。私の事務所には「世の中に笑顔をもたらすような志を持っている経営者を支援していきたい」というミッションがあります。いい税理士協会のホームページから問い合わせをいただくお客様はまさに「志ある経営者」ばかりなので、事務所のミッション実現にも一歩近づいていると感じています。
社会に笑顔をもたらす経営者を増やしたい
Q.最後に、今後の目標を教えてください。
私たちの事務所では「志ある経営者のビジョンをともに実現したい」ということをミッションにしています。
自分だけが稼げればいいと考える経営者が増えても社会は良くなりません。ビジネスを通じて人々に笑顔をもたらしたいと考える経営者を支援していくことが私たちの使命だと考えています。事務所として「経営計画の策定」や「戦術・戦略実行のための資源提供」などのサービスを提供していくことで顧問先からも信頼され、寄り添うことができる税理士事務所になることを目指したいと思います。
まとめ
蕎麦屋の店主からの悩み相談をきっかけに、中小企業の経営支援に乗り出した荻島さん。現在は10名の事務所スタッフの先頭に立ち、ミッション・ビジョンの実現に向けて全力投球しています。荻島さんのような「いい税理士」が増えてくれば、税理士業界全体の底上げにもつながることでしょう。
※ いい税理士協会は2022年7月をもって解散しました。
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