【顧問税理士インタビュー】社長も必死、私も必死だからこそ信頼が生まれる

こちらの記事で取り上げた(株)落雷抑制システムズは、あおい税理士事務所と顧問契約を結んでいます。同事務所の代表税理士を務める赤木葉子さんは「自分たちにできる税務をおざなりにして、コンサルタントのように振る舞うのは本末転倒」という強い信念を持っています。税務を大切にしたうえで顧問先の業績向上に貢献することを目指す赤木さんに、(株)落雷抑制システムズの松本社長との関係などを伺いました。

>>>(株)落雷抑制システムズの松本社長のインタビュー記事はこちら

「お客様のためにこうする」をすぐに実行したい

Q.(株)落雷抑制システムズの松本社長と出会った経緯を教えてください。

赤木さん(以下、赤木):横浜の税理士法人に勤めていた時に、松本さんの会社の担当になりました。私は当時、資格試験に合格したばかりで、税理士登録をまだしていなかったと記憶しています。松本さんはそんな駆け出しの私に「将来、自分の事務所を構えたら最初のお客さんになってあげる」とおっしゃってくれたので、深く印象に残っています。

Q.独立した時期と理由を教えてください。

赤木:独立したのは3年前です。いくつかの税理士事務所での勤務経験がありますが、会議が非常に多い事務所や、若手を育成する立場に置かれた事務所もあり、お客様をそっちのけにしていると感じることが増えてきました。私はお客様と接していると元気になれるのですが、会議をしたり人を育てたりという"中の仕事"には興味が持てなかったんです。

また最低限の決算申告だけをやって毎日17時に帰宅する人もいれば、私も含め連日夜遅くまで残業する人もいて、顧問先が同じ件数だから同じ評価になるということにも納得しにくいものがありました。

組織が大きいと「お客様のためにこうしたい」という思いをすぐに実行できないことも、独立しようと思った理由の一つです。

さらに言うと、場合によっては担当から手を引かなければならないこともあります。案件の立ち上げにだけ参画して、あとは若手スタッフに任せるというケースです。独立すれば、同じお客様をずっと担当できます。その点が、最終的に自分でやっていこうという決め手になったと思います。

ビジョンを実現していく社長を支えたい

Q.避雷針システムの企画・製造・販売を手掛ける(株)落雷抑制システムズは、ユニークなビジネスを展開しています。最初に担当した時の印象をお聞かせください。

赤木:最初はどんな会社かわからなかったのですが、松本さんから商品に対する自信が感じられたことに加え、自衛隊の船舶などに同社の避雷針システムはすでに導入されていたので、将来性があることにはすぐに気づきました。

Q.普段の松本社長はどんな方ですか?

赤木:東京オリンピック・パラリンピックの会場に製品が導入されたことも含め、松本さんはいつも自信を持って大きなビジョンを語り、それを次々に実現していきます。ビジネスの相手がどんなに大きな組織でも、また仮に相手にされなくても、そんなことはおかまいなしに突き進んでいくんです。エンジニアとして社会的使命を本気で果たそうとする姿勢からは学ぶべきものが多いと感じています。

Q.(株)落雷抑制システムズの職務発明(自分の職務での発明)について、赤木さんがアドバイスをしたと伺っています。

赤木:松本さんと、亡くなった元社員の方が共同で行った職務発明があるんです。ただ、当時は社内規定が整っておらず、対価の支払いがうやむやになっていました。そのことを松本さんが気に病んでいたので、相続人の方にお支払いするのを手伝ったんです。

経験のない分野でしたので、お付き合いのある弁理士さんに相談して対価の相場を調べたり、書籍を読んだり関連するセミナーを受講したり、いろいろ手探りしてみました。時間はかかりましたが、最終的には松本さんの意に沿う形にできて良かったと思っています。

Q.(株)落雷抑制システムズには商標登録や意匠登録などが120件ほどあり、それらを資産計上するようアドバイスしたとも伺いました。

赤木:これも松本さんと相談しながら決めたことですが、将来のM&Aなどを考えた時に、資産が多いほど価値の高い会社だと見なされると判断したんです。税金を払ってでもそうしたいと松本さんもおっしゃったので、今は資産がどれだけ増えてるか見える形にしています。

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顧問先からの共感を超えた信頼

Q.松本社長は、赤木さんは人柄が良いと評価していました。

赤木:私、結婚生活がうまく行かなくてシングルマザーになる道を選んだんです。松本さんもシングルファザーとして息子さんを育てたご経験があるので、もしかすると私の境遇に共感してくれたのかもしれません。

そのこともあってか、松本さんは私とのご縁を大切にしてくれました。松本さんの性格から社交辞令とは思っていませんでしたが、まさか本当に顧問契約を結んでいただけるとは思っておらず、感謝の気持ちでいっぱいです。それでも、私がきちんとした仕事をしなかったら、間違いなく契約を打ち切られると思います。松本さんは社長ですから、そうするのが当たり前です。

私も事務所を経営する立場なのでわかります。経営者は無駄な投資はしません。松本さんも必死ですし、私も必死です。シビアな世界を生きていることをひと時も忘れてはいけないと思っています。

Q.税理士として大切にしているものは何ですか?

赤木:相談のしやすさです。

突き詰めて考えると、熱心な税理士ほどブラックな働き方しかできないんじゃないかと思います。と言うのも、松本さんをはじめ顧問先の社長さんが何かで困った時、気軽に電話してもらえる関係性を築きたいと私は思っています。金曜日の夜に悩んだら、そのことに囚われたまま週末を過ごしてほしくないんです。

例えば松本さんから夜中に電話をいただいたら「関係性は上手くいっている」とうれしくなります。私に対して遠慮していない証拠ですから。24時間営業とまでは言いませんが、労働時間が長くなるのは仕方がないことだと思います。

中小企業の社長は常に膨大な事柄を抱えています。私に解決できることがあるのなら、一つで二つでも取り除いて事業に邁進していただきたいんです。社長が戦っているのと同じように、私も常に戦っている気持ちでいます。

Q.他の税理士事務所と差別化しているところはありますか?

赤木:記帳代行をやめる税理士事務所は多いと思いますが、話をよく聞いてみると無責任な自計化が散見されます。自計化させているがゆえに中身には責任を持ちません、という事務所すらあります。(株)落雷抑制システムズのように経理がきちんとしている会社はそれでいいかもしれませんが、記帳代行を必要とする会社は今でも少なくありません。正しい記帳は経営の基本ですから、そういうお客様にも安心していただけるように対応しています。

大きな事務所だと自計化に関しても一定の方針が必要になると思いますが、私たちみたいに小さな所帯だと、一件一件のお客様について、自分の判断でお客様に合わせたベストな方法を決めることができます。

また、私たちは「所詮は税理士」なんだという気持ちを忘れないようにしています。税務で貢献できる提案をないがしろにしてコンサルタントの真似事をするのは本末転倒です。

丁寧な税務というのはまず、お客様の状況や要望を的確に把握したうえで「もっとこうできるのでは?」と疑問を持つところから始まり、取り扱いを調べるなど多くの時間が必要です。結局、想定どおりにいかないケースも多々あり、お客様に伝わらない部分、見えない部分で奮闘する時間が実はとても多いのです。

言葉を選ばずに言えば、この時間をかけなかったとしても、お客様は気づかないのが実情です。だからこそ税理士には専門性が求められ、そこに我々の使命があります。この時間をかけるからこそ、はじめてその先の提案ができるのだと実感しています。自戒の念を込めて、私たちは所詮は税理士だと心にとどめています。

Q.顧問先への対応で苦労したことがあれば教えてください。

赤木:資金繰りがマズいことをわかっていない経営者にどう気づいてもらうかとか、税金を払うことに悪いイメージを持っている方にどう考えを改めてもらうかとか、いろいろあります。前者については一緒にシミュレーションをして現状のピンチを認識してもらいました。後者については「節税には協力しますから適度に納税しましょう。そうしないと結局、会社は潰れてしまいます」ということをかみ砕いて説明したりしました。決めるのは社長自身なので、私は良い方向へ導けるような判断材料を提供するだけです。

中小企業では常にさまざまなことが起こりますので、あらゆるご相談やご支援はそもそも苦労ではありません。ただ唯一、苦労だと感じるのは、本当に稀ですが、経営者自身に事業に対する「愛情」がない場合のサポートです。私自身にも社長をサポートするモチベーションが絶対に必要なのだと痛感しました。

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Q.来年71歳になる松本社長は、将来の事業承継を念頭に置いているようです。

赤木:M&Aを含め、出口としての事業承継は私の頭の中にもあります。(株)落雷抑制システムズを少しでも価値の高い法人だと見てもらえるように手を尽くすつもりです。

Q.顧問先の業績向上に貢献する税理士を「できる税理士」だという見方もあります。

赤木:社長さんと長く付き合っていく以上、税理士には会社を発展させる責任がないとは言えません。例えば、残念ながら業績が下がってビジネスをやめざるを得ない場合、傷の浅いうちに決断するよう促すのも私たちの役目です。返せる見込みのない追加融資を受けて、立ち直る機会を奪うようなことはあってはいけません。社長さんと一緒に業績向上について考えるのは、税理士の大切な務めだと思います。

*      *      *

(株)落雷抑制システムズの松本社長は、駆け出しだった赤木さんに将来の顧問契約を約束し、実際に約束を果たしました。その理由について松本社長は「赤木さんの人柄が良かったから」と話しますが、それだけではないはずです。

出会った頃、まだ税理士でさえなかった赤木さんが誠心誠意、松本社長を支えるという強い信念を持っていたからではないでしょうか?そこには、境遇に対する共感を超えた確かな信頼関係があるように感じます。

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