事業承継はピンチかチャンスか? 意欲ある後継者とのチャレンジ

「いい税理士」はどのようにして中小企業の業績向上に貢献しているのか。今回は、愛知県豊橋市の税理士法人 杉山会計の杉山裕康さんに、顧問先の業績向上に貢献した事例を伺いました。
社会の高齢化が進む中で、中小企業の事業承継は差し迫った課題となっています。次代の経営者にバトンを引き継ぐことは容易なことではなく、様々な問題も起こりえます。しかし、事業承継を契機として、経営を改善に取り組むこともできるようです。

税務の問題以上に大きな、事業承継の課題とは?

会社を次世代に引き継ぐというのは簡単なことでありません。そもそも後継者が見つからないということもありますし、後継者がいたとしても相続税や贈与税などの税負担がのしかかります。
さらに、中小企業の場合には、経営に関する重要な情報が経営者の頭の中でしか管理されていないというケースもよくあります。そういった情報のブラックボックス化が、円滑な事象承継を妨げる障害となってしまうのです。杉山さんの顧問先はどのような状況だったのでしょうか。

■事例の概要

主な成果 売上の25%向上
取り組んだこと ①毎月の売上高の見える化と売上目標の設定
②売上台帳や仕入台帳の集計効率化
業種 総合工事業
売上規模 年商3億以上
従業員規模 31人~50人
顧問先との取引年数 5年以上10年未満

田 中

杉山さんの顧問先さんの事例についてお話をお願いします。

杉 山

こちらの会社さんは、一般的な土木工事から舗装、建築、リフォームなど総合的にやられている建設業です。後継者である息子さんが会社を引き継ぐ際にご相談をいただき、一緒に経営改善に取り組みました。

田 中

中小企業の事業承継は色々と課題が多いと聞きますが?

杉 山

そうですね。税務関連の課題も色々あるのですが、会社を引き継ぐ際に状況が整理されおらず、後継者の方が把握までに苦労するという話はよくあります。実際のところ、先代の頭の中身を整理するのはそう簡単なことではありません。事業承継においては、そちらの方が大きな課題だと思います。

田 中

こちらの顧問先企業は、状況の整理は出来ていたのでしょうか?

杉 山

お世辞にも整理されていたとは言えませんでした。先代の社長は昔ながらの人情派です。建設業には多いと思うのですが、「忙しいなぁ」「暇だなぁ」で売上をざっくり認識するタイプでした。

田 中

「忙しいなぁ」で売り上げを認識とはどういうことですか?

杉 山

「最近の売上はどうですか?」と尋ねると、「良い」「悪い」で答えてくれるのではなく、「忙しい」「忙しくない」で答えが返ってきます。数字なんて把握していないんですね。
忙しければ働いているからお金は入ってくる。忙しくないということは仕事が減っているので資金繰りを考えなくては。といった風に、社長の「忙しさ」の感覚をもとに、経営状況をざっくりと捉えていらっしゃるんです。

田 中

田中:経理はどなたかがやられていたのですか?

杉 山

奥様が経理を担当されていましたが、専門知識はほとんどお持ちではありませんでした。社員の面倒見は非常に良い方なのですが、別の税理士さんとやり取りされていた頃は、経理は会計事務所に丸投げしている状況だったようです。

売上を「見える化」することで、伸びるきっかけが生まれる

「事業承継」のような一大イベントをチャンスに変えるためには、常日頃から顧問先の経営課題を把握し、解決のためのアクションを想定しておかなくてはなりません。

田 中

そのような状況から、どのようなきっかけで改善に取り組まれたのでしょうか?

杉 山

杉山:改善してもらわないといけないな、このままだとまずいなと思っていたタイミングで、ちょうど息子さんが跡を継ぐために戻ってこられました。会社を引き継ぐためには、取引先のことや社員のことだけでなく、売上や借入金といった会社の数字面についても把握してもらわなければなりません。

杉 山

幸い息子さんには、会計事務所に丸投げにしていた経理についても、自分できちんと把握したいという意向がありました。
改善してもらいたいと思っていた私と、会社の状況を数字できちんと把握したいと思っていた息子さんとの思惑が一致したこともあり、上手く事が進んだのだと思います。

田 中

どのようなことから取り組まれたのですか?

杉 山

まずは、売上を「見える化」することから考えました。当時は売上の集計すらできていませんでした。請求書も担当者ごとに振り出されており、債権の回収についても不安がある状況でした。Excel等を使って容易に集計できるようにして、ひとまず、売上だけは把握してもらえるようにしました。
さらに、損益分岐点を用いて、どれくらいの売上をあげれば利益が出るのかについても把握してもらうようにしました。目標にすべき売上も見えてきて、息子さんも意識が少しずつ変わっていったように思います。それに伴い、自然と売上も伸びていきました。

杉 山

少しすると、お会いする度に「売上はいくらでした」と、具体的な数字をおっしゃっていただけるようになりました。私たちとしても、単月の売上からどれくらいの利益が出そうかを把握できるようになりました。

「見える化」することで広がる顧問先とのコミュニケーション

顧問先の経営改善に取り組むにあたり、大切なのは経営者のポリシーを理解してコミュニケーションを重ねることだと杉山さんはおっしゃいます。

田 中

売上が「見える化」されたことによる変化は何かありましたか?

杉 山

毎月の売上や利益が見えるようになって、節税の話はもちろん、数字で色々とアドバイスすることができるようになりました。
毎月訪問していますので、商売が順調か? どんな悩みを抱えているか? といった、定性的な状況はある程度把握していました。そこに、売上や利益といった定量的な情報が紐づくことで、より明確に会社の状況が見えてきます。

田 中

税務以外の話もしやすくなったのでしょうか?

杉 山

そうですね。税務以外の話もするようになりました。売上を軸に話をすることで、社長とのコミュニケーションも多岐に渡るようになりました。
経営者にはそれぞれポリシーがあります。それを理解していないと、こちらの言葉を批判的に捉えられてしまうこともあり、難しいです。幅広くコミュニケーションを重ねることで、親近感をもってもらうことができ、社長との距離感を縮められたと思います。

田 中

結果的に事業承継はうまくいったのでしょうか?

杉 山

事業継続に際し、少なからず問題はありました。ですがマメに話を伺うなどしていたため、解決に向けた行動を素早く取ることができました。現在は息子さんが社長として、会社をうまく経営されています。

田 中

経営者の意識を変えることができたのがうまくいった要因でしょうか?

杉 山

意識が変わったという点もそうですが、後継者に色々と勉強する意欲があったことは大きかったです。ExcelやITツールを活用していく意向も強くお持ちでした。顧問先の経営に伴走していくという意味では、経営者の意欲も重要になると思います。

田 中

「いかに経営者の意欲を引き出せるか」も「いい税理士」の課題と言えそうですね。ありがとうございます。

杉山さんのお話を聞いて【取材後記】

中小企業の中には、社長の勘を頼りにどんぶり勘定の経営をしてしまっている会社も多いのではないでしょうか。
そういった中小企業においては、勘任せになっている数字を少しでも「見える化」し、「計画経営」をほんの少しでも導入するだけで業績が改善することがあります。

社長が日々の業務に忙殺されて会社の状況を整理するなんてできない。計画を考えることまで手が回らない。というのは、よく耳にする話です。しかし「どうすればいいかわからない」「きっかけがつかめない」というのが、本当の原因であることも多いのではないでしょうか。
顧問先の経営に寄り添いながら、顧問先が取り組みやすい課題やきっかけを見つけてあげることも「いい税理士」の仕事のひとつかもしれない。杉山さんが事業承継というタイミングを逃さずに成果に結びつけられたのは、常日頃から顧問先さんの状況を把握し、改善する糸口を模索されていたからだと感じました。

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