会計事務所が生き残るためにはスタッフの成長が不可欠

荻島 宏之 さんインタビュー by Lanchor(ランカー)

所長である代表税理士が、1人で中小企業の業績アップに貢献しているだけでは、「いい税理士」として成功しているとはいえません。代表税理士の力だけでは、支援できる中小企業の数に限界があるからです。
そのため、「いい税理士」は一緒に頑張ってくれるスタッフを育成しなければなりません。中小企業の経営をサポートする、という想いを共有できる仲間が必要です。
では、「いい税理士」を志すみなさんは、事務所スタッフの成長にどのように向き合っているのでしょうか。今回は、スタッフの成長が何より重要だと語る、株式会社start-withの荻島宏之さんにお話を伺いました。

「ヒト・モノ・カネ」成長するのはヒトだけ

「顧問先に寄り添い、顧問先の経営実行力をいっしょに高めたい」という強い信念をお持ちの荻島さん。2013年に開業してから成長を続け、現在は約10名規模の事務所になっています。そんな荻島さんが、事務所のビジョン実現のためにはスタッフの成長が欠かせないと語る理由な何なのでしょうか。

荻 島
私1人の力では、より多くの顧問先に寄り添うことはできません。想いを共にしてくれるスタッフがいてくれることで、より多くの顧問先の経営実行力を高めることができます。そのためにも、スタッフの成長や教育に投資しなければなりません。

>>荻島さんの中小企業を支援する想いについてはこちらの記事をお読みください

さらに、税理士を取り巻く環境が変化していることも、スタッフの成長が必要な理由だといいます。「AIに仕事を奪われる」とも言われてもいる通り、税金計算や記帳代行といったサービスは価値が下がってきています。
これからの時代に会計事務所が生き残っていくためには、より付加価値の高いサービスの提供が求められます。中小企業のニーズに合わせて柔軟に対応するためにも、会計事務所自体が成長を続けていかなくてはなりません。その事務所の成長を支えてくれるのが、スタッフだといいます。

荻 島
ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源の中で、成長できるのは「ヒト」だけです。環境やニーズの変化に適応し、事務所が成長していくためにも、スタッフ(ヒト)の成長は欠かすことができません。

「いい税理士」を目指すのであれば、代表税理士自身はもちろんのこと、スタッフも共に成長していく組織を作り上げなくてはなりません。

経営者との面談がスタッフを成長させる

では、どのようにしてスタッフの成長を促していくべきなのでしょうか。荻島さんによれば、スタッフの成長に一番必要なことは、顧問先の経営者とお会いして、話をする機会を増やすことだそうです。
もちろん、ただ経営者と会って話をする経験を重ねればよいというわけではありません。成長効果を最大化するためにも、経営者と会話のキャッチボールをするための「事前準備」が大切だといいます。

荻島 宏之 さん by Lanchor(ランカー)
荻 島
スタッフの成長のためには、顧問先の経営者にお会いするのが一番です。経営者との会話において、「間が持たない、何を話せばいいのかわからない」とならないように、事前準備をしっかりとさせます。この準備にどれだけ真剣に取り組むかで、そのスタッフの成長が大きく変わってきます。

スタッフと経営者との面談には、荻島さんが同席されることもあります。しかし、そういった場合でも、できる限りスタッフに話をさせる、スタッフに任せるということを強く意識されているそうです。

荻 島
スタッフが会話に詰まっている様子を見ると、つい口を出したくなることがあります。しかし、そこで口出ししてしまうと、経営者はスタッフではなく、私に対して話をするようになってしまいます。それではスタッフの経験にはなりません。

スタッフの成長のためには、信頼して任せることが重要です。代表税理士自身にも忍耐が求められます。

事務所内でもアウトプットの機会を増やす

経営者と話をするための「事前準備」は、スタッフ任せにしてはいけません。この「事前準備」を充実させるための仕組みを事務所内で構築できるか。それが、代表税理士が責任を持つべき部分であり、事務所の経営者としての腕の見せどころでもあります。
では、荻島さんの事務所ではどのように事前準備に取り組んでいるのでしょうか。ポイントは、ディスカッション形式でアウトプットを増やす、という点にあるようです。

荻 島
顧問先1社を、何人かのスタッフで担当する形にしています。そのため、事前準備は複数人でミーティングを行うことになります。先輩、後輩という立場は忘れてもらい、お客様目線を大切にしてディスカッションしてもらっています。

ディスカッション形式でのコミュニケーションを通して、一人では気づけないような視点に気づくことができます。また、経営者との会話を充実させるという目的に対して、一緒に試行錯誤して取り組む仲間の存在は、一人ひとりのモチベーションの向上につながります。
さらに、事前準備のためのミーティング以外にも、スタッフだけで朝の勉強会も実施しているそうです。実際に経営者から受けた質問や相談事、自分が担当する顧問先が抱えている課題などの事例を持ち寄って議論しているそうです。

荻 島
以前は、講師役の先輩スタッフの解説をみんなで聞く、という一方通行の勉強会でした。しかし、やり方をディスカッション形式に見直したことで、現在はそれぞれが自分の頭で考え、アウトプットしてくれるようになりました。

事前準備して経営者との面談に臨んだ結果、面談の質はどうだったのか。今では、朝の勉強会はその振り返りの場にもなっているそうです。実際に経営者と話をする場面を、頭の中でイメージしながらディスカッションをする。その機会を増やすことで、「事前準備」の質を高められるのではないでしょうか。

荻島 宏之 さん② by Lanchor(ランカー)

正解の無い道を、スタッフと共に切り開く

会計事務所の仕事は、本当にAIに代替されてしまうのか。ニーズが多様化し、変化の激しい時代において、税理士業界の未来を予測をするのは容易ではありません。
しかし、大切なことは「未来を予測すること」ではなく、「未来の変化に適応していく」ことだと荻島さんはいいます。

荻 島
税務や会計には少なからず正解が存在します。しかし、これからの会計事務所に求められる「経営支援」という仕事は、正解が一つではありません。顧問先によって課題も違えば、正解も変わってきます。私たちは、正解を探りながら先に進んでいかなければなりません。そのために、やり方や考え方を変えていかなければなりません。この切り替えを、一緒にやってくれるスタッフが必要なのです。

この先、税理士業界がどうなったとしても、時代に合わせた事業をおこないstart-withという組織を存続させていく。それが、代表税理士として自分の使命だと荻島さんはいいます。そしてその実現のためには、ともに仕事をするスタッフの成長が何より大切だということなのです。

荻島さんのインタビューを終えて(取材後記)

「これからの時代に、事務所が生き残っていくためにどうすればよいのか?」
その問いに対する荻島さんの答えの一つが、「環境やニーズの変化に適応する事業を一緒に創ってくれるスタッフを育成すること」なのではないでしょうか。
経営課題に対して答えを出し、その実現のために仕組みを作る。それはまさに「経営者」の仕事といえます。
「経営者になりたくて経営者になる人はいない」とよく言われますが、それは税理士にも当てはまるのではないでしょうか。しかし、スタッフを雇って事務所を構えているのであれば、立派な「経営者」です。
「いい税理士」は、スタッフを含めた事務所全体で中小企業の業績アップに貢献します。今現在、頑張ってくれているスタッフや、これから雇うことになるスタッフに、どう成長して欲しいのか。「いい税理士」は経営者として自分なりの答えを持っていなくてはなりません。

セミナーのお知らせ

2021年8月25日、『「いい税理士」を徹底分析!』と題して、荻島宏之さんに参加者からの様々なご質問にお答えいただく形で進行するオンラインセミナーが開催されます。

ざっくばらんにいい税理士のお話を聞けるこのセミナーに参加し、今後の税理士としてのあり方を考える機会にしてみてはいかがでしょうか?

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